「街の人に『ここは自分の本屋だ』と言われたい」-南相馬市小高区 ブックカフェ「フルハウス」

 

「フルハウス」は、南相馬市に移住した芥川賞作家の柳美里さんが店主を務めているブックカフェです。フルハウスを目指して市外から小高を訪れる人は多く、街の新たな「ランドマーク」の役割も果たしています。

 

 

そもそも小高の地で、柳美里さんはどうしてブックカフェを開いたのでしょうか。

2016年7月、南相馬市内の警戒区域の指定が大部分で解除され、小高区でも住民の帰還が始まりました。2017年4月には小高工業高等学校と小高商業高等学校が統合し、新たに小高産業技術高等学校(以下、産業技術高校)が開校するのですが、その校歌の作詞を柳美里さんが担当したのです。そうして産業技術高校と縁が出来ました。

そうなると、そこに通う高校生たちの様子が気になるもの。ある日、通学する産業技術高校生の様子を見に行ったのだそうです。当時、小高駅発の終電は21時20分でしたが、そのような遅い時間にも関わらず、体育会系の部活動を終えた多くの高校生が、駅で終電を待っていたとのこと。当時の小高駅周辺は店舗も少なく、夜になると駅前の通りであっても暗くなってしまっていました(これは今もあまり変わらないのですが)。 その様子を見て、「高校生たちが安心して通学するために、小高の街に明かりを灯さなければ!」と思ったのだそうです。そこでブックカフェなら、自分たちの得意分野でもある本の力で高校生たちの役に立てるのでは、という思いに至り、2018年4月9日に「フルハウス」をオープンさせます。

 

 

店の運営の実質的責任者は副店長の村上朝晴さん。そして現在従業員として、大熊町出身の白岩奏人(かなと)さんと富岡町出身の関根颯姫(さつき)さんという、地元の若者二人が働いています。二人は、厨房に入ったりフロアに出たりと、フル活躍していました。

 

 

関根颯姫さんは富岡町出身の20歳。ふたば未来学園の卒業生です。この日はフロアで接客を担当していました。

 

 

白岩奏人さんは大熊町出身で、現在20歳。この日は厨房担当でした。スイーツ作りにはこだわりがあるようです。

 

 

入口には、店長である柳美里さんのメッセージが。そこには「本と人、人と人が出逢う場所」とあります。フルハウスは、本を媒介としたコミュニケーションを生み出す場なのですね。ここには南相馬の内外を問わず、様々な人が訪れます。そんな中で、新たな出会いが生まれているようです。

 

 

入口を入るとすぐに「ブックカフェ」のコーナーがあります。南側に大きなガラス窓を備えた空間は日の光を取り込み、光と影が混ざり合う落ち着いた空間となっています。

 

メニューは、数種類のパスタとキーマカレーという食事メニューを中心に、スイーツやコーヒー、柚子茶や高麗人参のお茶など韓国のお茶、韓国の伝統的な餅「チャルトック」などがあります。

 

 

 

この日は「ホッキ貝とほうれん草のクリームパスタ」と「柚子茶」を頂きました。

相双地域で愛されている食材「ホッキ貝」を使ったクリームパスタは、ホッキ貝とクリームソースの相性が良く、またホッキ貝の食感も良くて、とても美味しく頂きました。

食後に柚子の香りと少しの酸味が効いた柚子茶を頂くと、濃厚なクリームソースをサッパリと流してくれ、とても清々しい気分に。

 

 

奥に入るとカウンター席があります。ここで蔵書に囲まれながら、ゆったりと過ごすのも良いかも。

 

 

店内で販売される本は、こだわりのものが並んでいます。ここには副店長の村上朝晴さんの「読書に対して苦手意識を持っている人でも、本を読むきっかけになれば良いなという本を揃えています」という思いが込められているのです。店長である柳美里さんの小説はもちろんのこと、店長・副店長オススメの作家の小説や、図鑑、昆虫の本など、様々なジャンルの本が並んでいます。一方で、「高校生がちょっと背伸びをして読む本」というものも置いているそう。「そうして背伸びを経験することで、彼ら彼女らの世界が変わり、興味や視野が広がると嬉しいですね」と、副店長は話します。

先に「フルハウスには『市外から訪れる人がいる」」と書きましたが、地元のおじさんおばさんも大勢来られるそうです。高校生はもちろんですが、地域の人たちに「自分の本屋だ」という感覚を持ってもらえたら嬉しいと、副店長。そういう感覚を持った地域の人たちが、少しずつ増えているように感じられます。

コロナ禍が落ち着いたら、読書会や朗読会と言ったイベントも開きたいと考えているそうです。コロナ禍の前は、柳美里さんがつながっている作家や演劇関係者を呼んで、対談や自作の詩の朗読会なども開いていたとのこと。副店長は「こうしたイベントに、地元の人も参加してもらい、『馴染みの場所」としてのフルハウスになっていきたい」という想いを語ってくれました。

カフェスペースにはコンセントもありますので、小高駅にやって来る電車待ちの時間を、携帯電話の充電をしつつ、本の世界に浸りながら過ごすのも良いかもしれません。

「小高の町に明かりを灯したい」という想いから始まったブックカフェ「フルハウス」。美味しい食事を味わいながら、大変奥深い本の世界の入口になってくれることでしょう。

 

 

文・写真 戸田“軍曹”光司(南相馬市在住)

 

 

基本情報

ブックカフェ「フルハウス」

営業日 火~土 11:00~18:00

定休日 日・月 年末年始

住所 〒979-2121 南相馬市小高区東町1-10 ※駐車場なし

アクセス JR常磐線小高駅より徒歩3分

公式HP https://odaka-fullhouse.jp/

公式Twitter ブックカフェ「フルハウス」@OnePair3card

https://twitter.com/OnePair3card

 

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