- 浜さ恋Top
- トラベル・ライター, 地元記者
- 川俣町から、太鼓でふるさとを伝え続ける ~和太鼓奏者 遠藤元気さん~
川俣町から、太鼓でふるさとを伝え続ける ~和太鼓奏者 遠藤元気さん~
川俣町山木屋地区の冬は雪に包まれる。
町は、田んぼに水を張ってスケートリンクにする「田んぼリンク」を開設し、子どもたちが楽しむ姿がほほえましい。
そして雪におおわれた丘の上、山木屋小・中学校の体育館からはほぼ毎晩、太鼓の音が響く。
川俣町山木屋地区出身の和太鼓奏者・遠藤元気さんが、太鼓の練習をしているのだ。
遠藤さんが太鼓を始めたのは小学校4年生、10歳のころ。当初は、川俣町の街中の和太鼓団体に、2001年に地元の山木屋地区に和太鼓団体「山木屋太鼓」ができてからは、そちらに移って活動を始めた。
現在遠藤さんは、プロの和太鼓奏者として活動しながら、山木屋太鼓の代表も務める。
(川内村で開催された秋祭りで、山木屋太鼓として演奏する遠藤さん)
遠藤さんが、和太鼓奏者として活動するようになったきっかけは、2011年に発生した、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故だった。山木屋地区は、飯舘村・葛尾村に隣接しており、川俣町で唯一避難指示が出された地区である。遠藤さんも避難を余儀なくされ、一時期町外で暮らしていた。
強制的に町を離れなければならなかった遠藤さんだが、避難しながらもさまざまな場所で太鼓を演奏する機会を得たことで、「和太鼓奏者として挑戦してみたい」という思いが強まっていった。山木屋地区を離れることでふるさとへの思いも募り、支援してくれた人への感謝も伝えたいと感じていた。「山木屋に暮らしながら、和太鼓を通して、ふるさとを発信する」。和太鼓奏者としての活動のはじまりだった
(和太鼓奏者としてソロパフォーマンスする遠藤さん。本人提供)
和太鼓奏者・遠藤元気としてパフォーマンスはもちろん、イベントや各地のお祭りで、代表を務める「山木屋太鼓」への演奏依頼も多い。
現在、山木屋太鼓のメンバーは小学生から社会人まで約20人が所属しており、小学生だけでも、非常にレベルの高い演奏を見せる。そんな山木屋太鼓の力強く、完成度の高い演奏は、見る人たちに力と笑顔を届けているのだ。
だが、ここまでメンバーを集め、育てるには遠藤さんの長く、地道な努力があった。
2021年度現在、山木屋小・中学校には、小学生はおらず、全校生徒は、中学生が7人である。
震災前から山木屋地区の子どもの数は減少傾向にあったが震災以降は拍車がかかり、それに伴い山木屋太鼓に入会する子どもも減り、抜けていくメンバーが年々増えていった。
山木屋地区だけでは演奏できるメンバーが集まらないと危機感を持った遠藤さんは、川俣町の教育委員会に依頼し、町内の幼稚園、小中学校で出張の和太鼓教室を行ったり、学校のリトミック教室の中に、和太鼓体験の時間を設けてもらったりして、子どもたちが太鼓に触れる機会を増やす活動を始めた。「まずは触れてもらうことが大切だと思いました。小さいころに和太鼓に触れ、音楽に対する力を養うことで、未来のメンバーになってもらえるんじゃないか。地道ですけど、そういうことを行ってきました」。出張和太鼓教室を2~3年ほど続けた結果、山木屋太鼓にも少しずつメンバーが増えていったという。
山木屋太鼓が演奏する曲目は、山木屋の自然や情景をこめたものが多く、震災後に遠藤さんが作曲した曲には、一度離れてしまったからこそ感じたふるさとへの思い、ふるさとが存在することの有難さなどが表現されている。
だが遠藤さんは、まずは太鼓や音楽に触れて、楽しむことを重視しているそうだ。
「自分も太鼓を始めた時は、演奏よりは『友達と一緒に行けること』『太鼓を叩くこと』が楽しかったんです。まずはそういう思いで続けてくれればと思っています」。
今の小学生のほとんどは、震災後に生まれた子どもたち。「ふるさと」や「震災」に対する意識や思いを理解するには、まだ時間がかかる。
太鼓の練習やイベントの時に、遠藤さんや先輩たちが話す、曲に込められた意味を聞き、それを感じながら叩くことで、自然とふるさと・山木屋や、震災でこの町に起こったことへ思いが寄せられるようになれば、と遠藤さんは願っている。
(川俣町で生産が盛んな花・アンスリウムを持っていただきました)
和太鼓奏者として、福島県内外各地のイベントで演奏活動を行うほか、地元や町外の太鼓団体への指導、オリジナル曲の作曲なども行う遠藤さん。そこには、震災によって生まれた、新しい出会いとつながりがある。「同じ福島でも、文化や習慣はもちろん、震災による影響もそれぞれ異なります。イベントに呼んでもらうことで、僕たちはそういった福島のさまざまな姿を知ることができて、訪れた町の人たちには山木屋のことを知ってもらえるというのは、本当に恵まれているなと感じています」。
今後の目標を聞いてみると、「特にはないですが、今までと変わらず仲間と一緒に活動していくことで、山木屋に関心を持つ人が増えて欲しい」という答えが。「でも、そうやって冷静に考えられるようになったのは、最近のことなんです。震災直後は、『可哀想と思われたくない』と、パフォーマンスでも取材でもとがっていたような気がします。多くの人に支えられて、機会をいただくことで、新しい自分、新しいふるさとの形を発見していきました。今は、震災のおかげで、気持ちが成長できたのかな、と」。
最後に「山木屋で、自分たち大人が楽しく活動していく背中を子どもたちに見てもらい、『ああいう風になりたい』と思ってもらえたら」、と話してくれた遠藤さん。
ふるさと・山木屋を伝える力強い和太鼓の音、そして楽しそうに演奏する遠藤さんの姿は、これからも多くの人に力を与えていくのだろうと、山木屋の雪景色を見ながら感じたのである。
文・写真 山根麻衣子(双葉郡在住ローカルライター)
G-Project 遠藤元気
山木屋太鼓
https://yamakiya-taiko.com/
2022年3月5日(土)リモートライブ「第5回がんばっぺ福島!応援の集い」(山木屋太鼓出演)
https://ganbappe.com/