ワインを通じた、次世代へ続くまちづくり ~とみおかワインドメーヌ~

 

「とみおかワイン」のブドウを育てる畑は、富岡漁港、富岡駅、そして東京電力福島第2原子力発電所を見下ろせる小高い丘の上にあります。

ワイン用ブドウを育てているのは、「とみおかワイン葡萄栽培クラブ」の皆さん。月に1~2回行われる栽培活動のボランティアには、富岡町出身・在住の人はもちろん、関東や更に遠くからも多くの人が集まり、はじめての人も常連の人も、雨の日も晴れの日も、和気あいあいと作業を楽しむ姿が見られます。

 

 

実は、富岡町でワイン用ブドウの栽培が始まったのは、東日本大震災の後からです。

富岡町は福島県の中でも、1年を通して気候が温暖な浜通り地域に位置し、米をはじめ、どんな農産物も良く育ったそうで、大小あれど、どこの家でも田んぼや畑を持っていたそうです。ですが震災前は、ワイン用ブドウを育てていた人はいなかったとのこと。

なぜ、富岡町でワインをつくることになったのでしょうか。

 

 

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発起人は、富岡町で設計コンサルタントを行う、株式会社ふたばを経営する遠藤秀文さんです。(一社)とみおかワインドメーヌの代表理事でもあります。

 

遠藤さんは、東日本大震災による大津波で自宅を流されました。

富岡町には東京電力福島第一原子力発電所事故による避難指示が発令され、2017年4月に避難指示が解除(一部帰還困難区域を除く)されるまで、人が居住することはできませんでしたが、遠藤さんら発起人10人は、2016年4月に富岡町内でワイン用ブドウの栽培を始めたのです。

 

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なぜワインだったのか。

それは、遠藤さんのそれまでの経験に由来するのかもしれません。

遠藤さんは現在の会社を経営する以前、海外約30ヶ国で仕事をしており、富岡町で会社の経営を始めてからも、数ヶ国の海外の事業に関わっています。

 

富岡町では、多くの農産物はもちろん、富岡漁港や富岡川では海産物も豊富にあがります。
そんな富岡町でとれる豊かな食材に合わせたワインは、町の新たな産業になるのではないだろうか。
ワインであれば、日本人のみならず海外の人へのアプローチも可能にする。

そして、津波ですべて流されてしまった土地にワインブドウの畑をつくることで、豊かな景観を次の世代に残せるのではないだろうか。

 

 

そんな遠藤さんの思いに共鳴した、富岡町の農業従事者や事業者10人で「とみおかワイン葡萄栽培クラブ」を結成。富岡駅近くの小浜地区と、山合の下千里(しもせんり)地区の2カ所で各5アールずつの試験圃場(ほじょう※畑のこと)を設置し、ワイン用ブドウの栽培を始めました。

 

まだ誰も町に戻っていない時期のブドウ栽培。町に滞在できるのは16時までです。

そして誰にとっても初めてのブドウ栽培。栽培方法や圃場づくりも手探りでした。
試験栽培の中で、富岡町の気象や土壌に合う品種を検討したり、ワイン用ブドウ生産の先進地である、山梨県や茨城県などを訪問したりするなどして、栽培技術と醸造方法などを学んでいきました。

 

 

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そんな遠藤さんらを応援したのが、地元や各地から集まるボランティアでした。

当初は、遠藤さんが以前働いていた会社の仲間や元々知り合いだった地元の人たちがボランティアで参加していましたが、東京の大手企業がCSR活動の一環として参加するようになったり、東京から参加した人がさらに友人を呼んだり、町役場の職員など地元で働く人たちも参加したりと、どんどん活動の輪が広がっていったのでした。遠藤さんは「何も無くなってしまった町に、新しい産業をつくろう、震災前より良い町をつくろうと活動していたら、そこに共感した人が自然と集まって来てくれました」とうれしそうに話します。

 

毎月1~2回開催される栽培活動には、地元と日本各地から毎回20~30人が集まっています。
活動内容は、ブドウの収穫作業だけでなく、そこに至るまでのブドウの棚つくりや防鳥ネット掛け、枝の選定や圃場の草取りなど地味な作業も多いのですが、だからこそ「自分たちもワインづくりに関わっている」と実感できる瞬間が数多くあります。

 

 

回数を重ねるにつれ、ボランティアで富岡を訪れる人たちも「とみおかワイン葡萄栽培クラブ」に加わり、栽培活動だけでなく、活動の運営自体に協力してくれる人たちも現れました。現在、栽培クラブの運営の中心になっている人たちは関東在住。「富岡に来るのが楽しくて、仕事の休みはとみおかワインの活動に合わせて取ってます!」と笑顔を見せてくれました。

 

 

3年の試験栽培ののち、4年目の2020年にはワインの醸造にこぎつけました。収穫したワインを自家用車で山梨まで運び、醸造してもらいました。出来た本数は僅かでしたが、栽培クラブメンバーや町役場の方々と喜びの乾杯ができたのです。

 

2021年には更に栽培本数を増やし、白ワインになる「シャルドネ」「ソーヴィニヨン・ブラン」、赤ワインとなる「メルロー」合わせて約700キロを収穫。

山梨県と、2021年にお隣・川内村にオープンした川内ワイナリーに委託醸造し、2022年2月にはメイドイン浜通りのワインがお披露目となりました。

 

 

とみおかワイン葡萄栽培クラブフェイスブックページより

 

2021年産のワインも、販売できる本数は確保できていないため、2020年に行ったクラウドファンディングのリターンとして支援者に送ることになっているそうです。

 

 

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高品質のワイン用ブドウを栽培できるようになるには、30~50年かかると言われています。遠藤さんは、「我々の世代は主役にはなれないが、次の世代、その次の世代が主役になる地域資源を、長い時間をかけて育てていきたい」と話しました。

 

 

「とみおかワイン」を通じたまちづくりは、始まったばかり。

2022年1月に発表された「第12回地域再生大賞」で、(一社)とみおかワインドメーヌの活動は優秀賞を受賞。

とみおかワインの目指す、次世代である富岡町の中学校の生徒たちが、ワイン用ブドウでスイーツを開発したり、県外・海外から富岡を訪れ、ワインブドウ圃場に足を運ぶ人も増えています。

 

とみおかワインドメーヌの活動がこれからどのように展開していくかは、関わっていく人次第というところもあるのでしょう。
ワインを通じた富岡のまちづくりに、そして新たな産業の創出に、多くの人がかかわることのできるきっかけを、とみおかワインはつくっています。

文・写真 山根麻衣子(双葉郡在住ローカルライター)

 

 

 

とみおかワインドメーヌ
https://tomioka-wine.com/

 

とみおかワイン葡萄栽培クラブ フェイスブックページ

https://www.facebook.com/tomioka.wine

 

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