葛力創造舎のこれまでとこれから

 

東日本大震災からこれまで

私は葛尾村に生まれ育ち、大学進学で東京に出てそのまま就職した。震災前は企業に勤めながら個人でグリーンツーリズムに関わっていたが、震災翌月の2011年4月に福島県に戻った。「地域のために何かしたい」と、2012年2月に任意団体「葛力創造舎」を立ち上げたが、当時はまだ故郷は避難区域だったため、郡山市を拠点に東京での福島の物品販売イベントや東京から福島へのツアーなどを企画運営した。約1年後の2013年2月には団体を一般社団法人化。以来、活動の幅を広げてきた。

2016年6月に葛尾村の避難指示が解除されてからは、葛尾村内での活動に力点を移し、私自身も村に居を戻した。村の人口は極端に減ったが、それでも村が存続できるためには何が必要か。「葛尾らしさ」を活かした新たな村の在り方とはどんなものか。それを考え続け、いろいろな事業の試行錯誤を重ねてきた。そしていま、私たちは「つながり」を紡ぎなおすことにその答えがあると感じ、新たな模索を始めている。



つながりを紡ぎなおす

明治以降の近代化・工業化の流れの中で、日本人の時間の流れは速まり、土地とのつながりは薄れていった。大戦後の高度成長期にその傾向はますます強まり、2011年の原発事故はそれにとどめを刺す形で、土地とのつながりだけでなく人同士のつながりまでも奪ってしまった。村とは、物理的な空間だけでなく歴史という時間を人々が共有するコミュニティであり、周囲の自然との共生も含めた「つながりの総合体」だと、私は考えている。原発事故避難によって、葛尾村はその「総合体」としての機能を失ってしまったのだ。

葛力創造舎のモットーは、村の人を笑顔にすることだ。私が葛尾村に戻ってきて先ず行ったのは、「コメ」をテーマに年間を通してイベントを計画・実行することだった。村の主産品であったコメを軸にすればみんな馴染みやすいと考えたからだ。実際に村民の協力を得られるまでに多少時間はかかったが、春の田植えイベント、秋の稲刈りイベント、収穫米を使った酒造りなどを繰り返すうちに、村内での認知度と村民からの信頼は上がってきた。2019年からは昔の村の結婚式である「祝言式」を再現したイベントも開催している。参加協力してくれる住民も増え、今では「次の行事はいつだ」と催促されるほどだ。※今年度は2022年1月22日実施予定

そんななか、2019年から外部アドバイザーの協力を得て、「村とは何か」をあらためて考えてきた。昔からの葛尾村らしさを残しつつ、持続可能な新しい形の「村」をつくるには何が必要か。それを検証するため2021年は集落調査や資源調査を実施した。いま私は、すべてのコアにあるのは「愛着」だと感じている。地域への愛着から生まれた活動が「らしさ」を生み、それがさらに愛着を育む。

その「葛尾らしさ」のひとつの象徴として注目しているのが「馬」だ。これまでのフィールドワークや聞き取り調査から、葛尾村は「馬」と由縁深いことがわかっている。ホースセラピーというリハビリ法があるくらい、馬はコミュニケーション能力が高い。2022年から、村民の心のよりどころとして、この馬を村で育てていきたいと考えている。


今後のビジョン

関係人口の増大にも引き続き力を入れていきたい。私たちは、様々な形で村と関わる人たちのコミュニティを「かづろうさんげ」と呼んでいる。地元の言葉で「かつらおさんの家」という意味だ。「思いでつながるセカンドファミリー」がコンセプトである。葛尾村に永住せずとも関わり方はいろいろある。イベントに参加するだけでなく、葛尾村について人に話し、広めるだけでもいい。「葛尾村が好き」。それだけで「かづろうさんげ」の一員になることができる。

葛力創造舎は村内ですでにZICCAという宿泊施設を運営しており、食住の受け入れ態勢はある。まず村に来て、村を体験し、村を知ってもらいたい。そのうちには移住を考えてくれる人も出てくるだろう。そうしたら、地域をより深く学び、地域づくりに関わってほしい。葛尾村の人は他人に親切で、ヨソモノでも快く受け入れてくれる。村でなにか新しく事業を始めたいと考えている人にとって敷居は低いはずだ。外から新しく来た人には、村のおばあちゃんおじいちゃんから大切にしていることや伝統・慣習を教えてもらい、引き継いでいってほしい。そのため2022年は、つながりのベースとなる拠点整備やチーム作りに力を入れて活動する計画だ。


思い描く未来

そして今年からは、もっと先の未来について、村の人たちと一緒に考え始めたい。村の人同士がどんな地域にしたいか、地域の在り方を話し合う場を設ける。 10年後は、人の営みが戻っている葛尾村にしたい。そこにおじいちゃんおばあちゃんの「技」や「思い」を引き継がれていること、外から来て村に根づいた多くの人がいることを目指す。葛尾の人は本当に心から村を愛している。「馬」などのシンボルも活用しながら「葛尾村らしさ」への「愛着」を育み、なにげない日々の生活の中に笑顔が絶えない村。ふたたび「つながりの総体」としての村を取り戻せるよう、葛力創造舎はこれからも村の人々と一緒に村の未来を創造していく。

一般社団法人葛力創造舎

代表理事 下枝浩徳

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