青春18きっぷで行く、浜通りラーメン数珠つなぎ③/③

 

歯車が狂い始めたラーメン旅。

 

福島県浜通りのラーメンをめぐる旅、2日目。

 

心で絶叫するほどの味わいに出会い、テンションは最高潮。

 

次なるお宝ラーメンを求めて、“青春18きっぷ”を握りしめ常磐線に乗り込む。これから出逢う味わいを想像して、ワクワク感が高まっている!

 

この時は、まだ思いもしなかった。

 

行き当たりばったりの旅の厳しさに直面することになろうとは……。

 

「浜通りラーメン数珠つなぎ②」を読む。

「四ツ倉駅」から常磐線で北上しながら、次の下車駅を考える。

 

そういえば、初日に訪れたラーメン屋で「小高駅」に客の絶えない人気店があるという話を聞いた。

 

「双葉食堂」というその店は、2010年の東北沖大震災で避難を余儀なくされたが、2016年に南相馬市小高で営業を再開。

 

食の娯楽が失われていた被災地域の人々は大いに喜び、復興の礎として親しんできたそうだ。

 

地元民に愛され、人の想いがこもった味というのは、もれなく旨い。

 

この旅でも、すでにそんなラーメン達に出逢うことができた。一つ一つに味の個性があって、腹に入れると不思議と心が温まる。

 

「双葉食堂」のラーメンも、きっとそこでしか味わうことのできない、滋味がするんだろうな。

 

期待に胸をふくらませて、「小高駅」で下車。

 

歩いて5分ほどのところにある店を目指して歩く。

 

「双葉食堂」という看板が見えて来た!

 

あれ?

 

てっきり客が列をなしていると思ったが、なんだか人の気配がしない……。

?!

 

暖簾がかかっていない!

 

そんなはずはない。webで調べたときは、定休日ではなかったし、営業時間内でもあった。

 

扉にある貼り紙を見てみると“臨時休業”の文字。

 

なんと明日から営業再開だという。

 

がっくしと肩を落としていると店の裏側から店主らしき女性が出て来た。

 

「ごめんなさいねぇ。今日までお休みをいただいているんです。せっかくだからラーメン食べさせてあげたいけど、準備ができてないのよ」と気遣うように声をかけてくれた。

 

そんな。そんな。店だってお休みするのは当然ですよね。

 

また、近くに来たときは立ち寄らせてもらいます。

 

せっかくなので、この近くでラーメンを食べたいのですが、良い店はありますか?

 

「ここから大通りに出て、駅と反対側に少し歩くと『殿様食堂』という店があるわ。そこでならラーメンを出してくれるんじゃないかしら?」

 

教えてもらった情報を頼りにして進むと、“ラーメン”とのぼりが立っている「小高交流センター」があった。

 

どうやら、この施設の中に「殿様食堂」は入っているらしい。

目当てのラーメンにはありつけなかったが、「殿様食堂」の雰囲気も明るく清潔感に溢れ、好感を持てるものだった。

 

お薦めにあった“貝のだし塩ラーメン 650円”を注文した。

やってきたのは、タン麺を思わせる、野菜がたっぷりのった塩ラーメン。

 

思えば、ラーメン旅を始めてから、ほとんど野菜を食べていなかった。もしかして、栄養バランスを考えなさい。という神様のお導きなのか?

 

久しぶりに味わう野菜の甘味をじっくり味わう。

 

うん。シャッキリとした食感で美味しい!

具材として添えてあるメンマは、ぶ厚くて食べ応えがあった。

 

きっと腹を空かせてやってくる住民のことを考えて、ボリュームのある盛り付けにしているのだろう。

 

すっかり落ち込んでいた気分も、心なしか元気を取り戻してきたかもしれない。

 

■めざせ!殿様食堂

 

〈住所〉福島県南相馬市小高区本町2-28

 

〈電話番号〉0244-32-1716

 

〈営業時間〉11:00~15:00

 

〈定休日〉月曜

 

〈駐車場〉あり

 

「相馬野馬追」の舞台で勇み足。

 

さて、栄養バランスもとれたことだし、張り切って次の店へと向かおう。

 

ひとまず常磐線に乗り込んで、再び下車駅のことを考える。

 

路線図の先を目で追うと、「原ノ町駅」という名前が目に止まった。

 

鎌倉開府前から相馬の地でつづく、「相馬野馬追」という祭礼のノンフィクションを読んだことがある。

 

原ノ町は、まさに「相馬野馬追」が行われる地域でなかっただろうか。

 

ラーメン屋の情報は知らないが、町の雰囲気を楽しみながら情報収集すれば、良い店に出逢えるかもしれない。

電車に揺られ、徐々に日が沈み出した頃「原ノ町駅」に到着した。

 

おお!駅の看板には騎兵が描かれている。かっこいい。

駅構内には、「野馬追祭り」の幕が大きく飾られていた。

 

白鉢巻を締めて騎馬武者に扮した人々が、果敢に疾走する「甲冑競馬」など、毎年多くの見物客が全国から訪れるそうだ。

 

開催時季は7月の最終土曜なので、実物をみることはできないが、雰囲気を感じられただけでも下車した甲斐はあった。

 

ラーメンの情報も集めなければと思い出し、駅員さんに声をかけてみる。

 

「ラーメンだったら『へうげもの』がいいんじゃないかな。ちょっと遠いけど、あご出汁でつくった濃厚なスープが旨いんよ」

 

そういえば、このラーメン旅ではあご出汁にはまだ出逢っていない。

 

地図を見てみると、歩きで30分はかかりそうだが「野馬追」の舞台を訪れ、気持ちが高ぶっている。

 

迷う暇があるなら歩きだすのだ!

「へうげもの」は“臨時休業”だった。

 

30分以上かけて歩いている間に、あたりはすっかり暗くなり、体感温度が10度は下がっている。風も強くなってきた。

 

本日2回目の臨時休業に腰を砕かれ、さすがに来た道を歩いて戻る気力はなかった。

 

近くのタクシー会社に電話をして、配車してもらう。

 

どんどん強くなる風に震えながら車を待った。

「『へうげもの』臨時休業だったんですね」

 

そうなんです。30分も歩いたのに残念です。

 

この辺りでほかにおいしいラーメン屋を知りませんか?

 

「原ノ町では『へうげもの』がダントツでうまいからねぇ。僕も散々ラーメンを食べてきたけど、あそこに並ぶ店はあんまりないんですよ」

 

それは食べたかったなぁ。

 

「そういえば、国道沿いに豚骨ラーメンのおいしい店がありますよ!」

 

え!ぜひ連れて行ってください!

 

「『豚道』っていうんだけどね。ボリュームあるし、なかなかの味です。駅からも近いし、そちらに向かいますね」

「豚道」も“臨時休業”だった。

 

偶然が重なりすぎて、笑ってしまった。

 

突然笑いだして、運転手さんはびっくりしていたけど、そんなことはお構いなしだ。

 

一日に3回も臨時休業に遭遇するなんて、なにかのバチが当たったとしか思えない。

 

気持ちを落ち着かせてタクシーに戻ると、運転手さんが声をかけてくれた。

 

「すみません、定休日ではないはずだったんですが。この先の『相馬駅』にある『翔屋』なら今日やっているはず!さっきタクシーで通ったときに明かりがついていました」

 

ありがとうございます。運転手さん。

 

ひとまず「相馬駅」に向かってみます。

 

時間的にも次が最後の店になりそうだ。

 

もし、また臨時休業だったら、コンビニのカップ麺でこの旅を締めくくることになる……。

次の電車は1時間後だ。駅前で時間を潰そうと思い、うろうろしてみると“ラーメン”という案内。

 

おぉ。僥倖なり。                            

 

これだけ体が冷えて、腹が麺を欲している状況だ。

 

最後の店へ行く前に、前哨戦で一杯食べていこう。

「原ノ町駅」のほんの目の前にある「みなとや」は、まさに地元住民の食堂といった雰囲気で、生姜焼きなどの定食、いくつかの中華料理がメニューに並んでいた。

 

本棚には、100冊を超える漫画本があり、学生時代によく入り浸っていた町中華の店を思い出す。

 

“ラーメン500円”は、シンプルな鶏ガラ醤油スープに、チャーシュー、メンマ、卵、海苔、かまぼこ、といった潔い佇まい。

 

味わいも、“ザ・ラーメン”といった印象で安心感がある。

 

ツルッと腹に収め、本棚の漫画本に手を伸ばしながら、電車を待つまでの時間をゆったり過ごさせてもらった。

 

■お食事処 みなとや

 

〈住所〉福島県南相馬市小高区本町2-28

 

〈電話番号〉0244-32-1716

 

〈営業時間〉11:00~15:00

 

〈定休日〉月曜

 

〈駐車場〉あり

 

1泊2日のラーメン旅、終着駅。

そして「相馬駅」へと、到着。

 

1泊2日のラーメン旅、最終地点だ。

 

時刻は19時を周っている。原ノ町でタクシーの運転手さんに教えてもらった「翔屋」という店を探して、暗い夜道を歩く。

 

街灯が少なく、足下に気を配りながら道を行くと、遠くの方にポツンと温かい明かりを放つ建物が見えた。

 

あれが目的地か?!

相変わらず吹き付ける寒風に震えながら店内に入ると、温かい空気と「いらっしゃいませ〜!」という威勢のよい声が出迎えてくれた。

 

店内の雰囲気は朗らかで良い感じだ。               

 

メニューを見ると、どうやら味噌ラーメンをウリにしているよう。

 

カウンターに着いて“直火コク味噌ラーメン 750円”を注文。

なかなかボリュームのありそうな味噌ラーメンがやって来た。

 

コクのある味噌の香りが鼻をくすぐる。具材には赤い味噌玉や木耳、ニラがのっていて、個性的な佇まいだ。

 

まずは、スープをひと口。

 

くぅ〜。冷え切った体に味噌スープの滋味がしみ渡る。

 

意外とスッキリとした味わいを食べ進めながら、中盤で味噌玉を溶くと、味わいが一変。

 

ガツンとパンチの効いた旨辛なスープに様変わりした。

麺は、味噌スープをしっかりと持ち上げてくれる太縮れ麺。

 

ワシワシと噛みながら食べ進められるボリューム感には満足感がある。

 

途中で挟む木耳やニラ、味噌玉も程よいアクセントになって、飽きを来させずに愉しく食べられる一杯だ。

 

店主、ご馳走さまでした!

 

とても個性的な味噌ラーメンで、美味しくいただきました!

「ありがとうございました。具材や味わいがちょっと変わった味噌ラーメンだったでしょう。僕が昔、寿司職人をやっていたこともあって、綺麗な見た目のラーメンをつくりたかったんです。器の中に緑、黒、赤、白があって彩が良いでしょう。途中で味わいに変化が出るように味噌玉の調合も工夫しました」と店主。

 

なるほど、鮨のバックボーンがあるラーメンというのは初めて食べた。

 

押し付けがましくない味噌のコクと、目を引く佇まいに納得だ。

 

■らーめん翔屋

 

〈住所〉福島県相馬市沖ノ内1-1-8

 

〈電話番号〉0244-36-6656

 

〈営業時間〉11:00~15:00  17:00~20:50

 

〈定休日〉なし

 

〈駐車場〉あり

最後の一杯を腹に収めて、一泊二日のラーメン旅を想い返す。

 

いわき市の小名浜から相馬まで、浜通りを縦断しながら10杯のラーメンを味わいながら浜通りを縦断してきた。

 

我ながら、よく食べ、よく歩いた旅だった。

 

一泊二日でこれだけ沢山のラーメンを食べることができたのは、全体的にあっさりとした味わいで、毎日食べても飽きないようなラーメンが多かったからだと思う。

 

旅の途中で、おいしいラーメンの情報を聞いて周ったが、時間や場所的に寄れなかった店もいくつかあった。

 

福島県浜通りには、まだまだ個性溢れる魅力的なラーメンが眠っている。

 

またいつか、浜通りに流れる潮風を感じながら、ゆったりした時間の流れに身を委ねに来たい。

 

〜今回の旅で立ち寄れなかった店〜

 

■「チーナン食堂」と並ぶ小名浜の“老舗ラーメン”。

 

「味世屋食堂」

 

■自家製極細麺と鶏ガラとあご出汁の“Wスープラーメン”。

 

「麺遊心」

 

■スープに全身全霊をかける店主の“塩ラーメン”。

 

「麺屋海山」

 

■松川浦漁港にある“あさりたっぷりのバターラーメン”。

 

「おいかわ食堂」

 

――おわり。

 

文・写真:河野大治朗

河野  大治朗トラベルライター

投稿者プロフィール

2018年9月「塚田農場 浅草店」店長から、dancyuのweb編集部で働きはじめる。 自分の好奇心を大切に、気になることはやってみる。大好きな食の魅力を伝える編集者になるため修行中。 特技は羊の解体。趣味はきのこ狩り。

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