世代を繋ぐ、想いを乗せた郷土料理 『懐食(なつしょく)レシピ』

相馬(そうま)と双葉(ふたば)を合わせて「相双(そうそう)地域」と呼びます。こちらの記事では、相双地域に住む人たちの思い入れのある料理をまとめた『懐食(なつしょく)レシピ集』という冊子から、季節ごとのレシピを7点ご紹介します!

『懐食レシピ集』が生まれた背景

相双地域に住む方たちが、元気に暮らすことができるように、相談活動を通じて「こころと体のケア」をしているNPO法人相双に新しい精神科医療保健福祉システムを作る会(通称なごみ)

相馬広域こころのケアセンターなごみでは、東日本大震災に関して、避難や帰還について悩みがある方、大切な方を亡くした遺族の方、引きこもりや就労に関することで困っている方などを対象に、サロン活動や家庭訪問等の支援を行っています。

保健師の伏見香代(ふしみかよ)さんは、相馬広域こころのケアセンターなごみに在籍していた時に『懐食レシピ集』を作りました。

伏見さんは仕事で被災者の家へ足を運ぶ際「自分が訪問することで『震災についての話をしなくちゃ』と、かえって辛い記憶を呼び起こさせているのではないか?」と感じることがありました。

震災当時、自宅を津波で流されたおばあちゃんからは、訪問するたびに何度もその話を聞かされたそうです。

でもある日「子供の頃に好きだった食べ物」や「嫁ぎ先でよく作った料理」など、食事の話で相手が笑顔になることに気付きます。

傷ついた心でも、安心して楽しく話すことができる共通の話題。それが“料理”でした。

そこで「相双地域の人たちの思い入れのある料理をレシピ集にまとめよう!」と思い立ち生まれたのが『懐食レシピ集』です。

『懐食』とは?

・「あぁ懐かしいな」「もう1回食べたいな」と思う料理や食べ物
・「誰かに作ってもらった」、「誰かと一緒に食べた」などエピソードのある料理や食べ物
・郷土料理や、地域の風習や文化伝承のエピソードが伴う料理

相双地区は、海も山も川もある豊かな土地。地元の自然を大切にし、その恵みを食事として頂いてきました。想いやエピソードを添えた『懐食』は、昔の暮らしや震災を風化させない語り部の役割を担っています。

春の懐食レシピ

◆ がにまき

南相馬市周辺に伝わる郷土料理です。

地域では「ガニ」と呼ばれている川ガニ『モクズガニ』をガシャガシャと潰し、それをさらにすりつぶしてこします。

そうして出来たとろっとした液体をお玉で掬って沸かした湯に入れると、卵が固まったようなふわふわした塊になります。

この塊をおつゆと一緒に食べると、とんでもなく美味しい!

モクズガニの旬である春先と秋口にしか食べられません。しかも、モクズガニは魚屋では売っていないので川から獲ってこないといけません。そして、がにまきを作れる人はそれほど多くはありません。

お店で気軽に食せるものではなく、ご縁がないと食べられない幻の郷土料理!

それがこの『がにまき』です。

【材料】

モクズガニ
味噌

【作り方】

  1. 臼でモクズガニをつぶし、味噌を入れてさらにつぶす。
  2. 網でこして、1番こし汁を作る。
  3. ②に水を足して、2番こし汁を作る。
  4. 2番こし汁を沸騰させたら、1番こし汁を入れる。
  5. できあがり!

【地元の方の声】

・鹿島区真野川上流で「がにどう」を使って、「モクズガニ」を取って作った。震災後はモクズガニがとれなくて、秋田から送ってもらって作っている。
(鹿島区50代男性)

・請戸川で笹を川に入れてカニを取った。これは、男の料理。
(浪江町70代男性)

・上真野の人から、つぶしたカニをおすそ分けで頂いたの。美味しかったわ
(鹿島区40代女性)

◆大蛇巻き

昭和61年、小高区では長い海苔巻きを作って、ギネスに挑戦しました。舞台は歩行者天国となった駅前通り。記録は842.62m。参加人数2千5百人(見物人を含めると7千人)。米9俵、海苔6千枚、卵3千個を消費しました(おだかまちの現代資料より)。

当時、たくさんの小高区の住人が参加しました。今でも多く人にとって、共通の思い出となっています。

『小高大蛇伝説』という地域に伝わる昔話の大蛇をイメージして長い海苔巻きが作られました。これを懐食レシピに掲載するにあたって『大蛇巻き』と名付けました。

様々な場所で開催される交流会で小高区を紹介しながら大蛇巻きが作られています。

【材料(約2m、目安10~14人分)】

米           5合
海苔          10枚
でんぶ         80g
油あげ(煮てあるもの) 20枚
かんぴょう       120g
シイタケ煮       100g
きゅうり        3~4本
玉子          6個
すし酢         適量

【作り方】

  1. ご飯を炊いて、すし酢を混ぜて酢飯を作る。
  2. ラップの上に海苔を敷き、水で海苔を貼り合わせる。
  3. 海苔一枚にご飯180~200gを広げる。端は3cmほど空けておく。
  4. 食べやすい大きさに切った材料をご飯の上にのせて、みんなで呼吸を合わせて巻く。
  5. できあがり!

【地元の方の声】

・小学生の時に参加したよ。
(小高区40代男性)

・難しいくらいのチャレンジはみんなで頑張りがいがあって、盛り上がるんだ。苦労があったけど、たくさんの方が手伝ってくれて、大成功だったよ。
(小高区 大蛇巻き発案者70代男性)

夏の懐食レシピ

◆ カツオの焼き漬け

一千有余年の歴史を超えて今なお息づく伝統の祭『相馬野馬追(そうまのまおい)』。大幅な規模縮小がありましたが、震災の年にも執行され法螺(ほら)貝の音色を絶やしませんでした。

毎年夏に開催される相馬野馬追の時期はカツオ漁獲期にあたります。「戦に勝つ」という縁起を担ぐ意味でカツオを使った料理を食べるようになったと言われています。

【材料(4人分)】

カツオ   4切れ
塩     少々
サラダ油  小さじ1
醤油    大さじ2
みりん   大さじ2
酒     大さじ1/2
砂糖    大さじ1/2
しようが  1/2片

【作り方】

  1. カツオに塩をふって、少し時間をおく。
  2. しょうがを千切りにする。
  3. フライバンに調味料を入れ少し煮つめ、千切りにしたしょうがを加えて火を止める。
  4. サラダ油でカツオを焼き、③の液につける。
  5. できあがり!

【地元の方の声】

・昔から、野馬追のごちそうとして食べられていました。昔は、瓶(かめ)に漬けていたと思う。
(浪江町70代女性)

◆ ほっきご飯

【材料(6人分)】

米        3合
ホッキ貝     3個
人参、ごほう   適量
調味料(油、糖、酒、サラダ油) 適量

【作り方】

1. ホッキ貝は良く洗い、細かく切る。
2. 人参を細切り、こぼうをささがきにして油で炒める。調味料を絡める。
3. ホッキ貝を加えて、ひと煮立ちする。
4. 米を研いで煮汁を入れ、炊飯器にセットする。
5. 炊飯して蒸らしになったら③を加え、できあがり!
※もち米で、おふかしのホッキご飯にする方もいます。

【地元の方の声】

・ほっきご飯は、お客さんが来るとおもてなしの定番でした。
(原町区50代女性)

2010年に南相馬で講演した時に、食べさせてもらって感動したのがほっきご飯。これも南相馬に来る楽しみの一つです。
(長野県諏訪中央病院名誉院長 鎌田實(かまたみのる)先生)

秋の懐食レシピ

◆ かぼちゃまんじゅう

浪江町津島地区では、地域のみなさんが特産品として『かぼちゃまんじゅう』の広報活動に力を入れていました。ようやく周知されてきた矢先、震災が起こります。

震災後は『かぼちゃまんじゅう』を心のケアセンターなごみ主催のサロンで浪江町の方に教えていただきました。その他にも様々な場所で開催される交流会で浪江町を紹介しながら作られています。

美味しいだけではなく、楽しく子ども達と一緒に料理します。震災の語り部としての役割も担っています。

【材料(15個分)】

かぼちゃ      100g
薄カ粉       150g
砂糖        25g
水         100㏄(かぼちゃにより調整する)
べーキングバウダー 5g
タンサン      4g
餡         300g
打ち粉(薄カ粉)   適量

【作り方】

  1. かぼちゃは、蒸かしつぶしておく。
  2. 薄力粉にべーキングパウダー、タンサン、砂糖を混ぜる。
  3. ②にぬるま湯とかぼちゃを練り合わせ、耳たぶぐらいの固さにする。
  4. ラップをかけて、3時間以上発酵させる。
  5. 打ち粉をしながら、餡を15g、生地を20gでくるむ。
  6. クッキングシートを敷いた蒸し器で、10~12分蒸かす。(※蒸しすぎると黄色が茶色になってしまうので注意)
  7. できあがり!

冬の懐食レシピ

◆ べんけい

原町区の海の近く、萱浜地区の郷土料理。もともとは江戸時代末期に北陸からの移民の方が持ち込んだとされている冬の保存食です。移住した土地で故郷を偲び作ったのでしょう。

江戸時代には『天保の大飢饉』があり、この地域でも食糧が不足しました。餓死で人口が半分~3分の1まで減ったといわれています。それを乗り越え、今も作られているのが『べんけい』です。

津波で甚大な被害を受けた萱浜地区。現代でもまた人々と一緒に苦労を乗り越えた料理となりました。

震災の記録集は一部の人にしか読まれませんが、料理は幅広く庶民に広まり根付いていきます。エピソードをのせて料理を継承していくことが、地域の記憶を繋いでいくことになるでしょう。

【材料】

大根    300g
芋がら   20g
唐辛子   1/2本
油     大さじ1
酢     30cc
砂糖    大さじ1
醤油    大さじ2

【作り方】

  1. 根は皮をむいて1mm厚さの銀杳切りにする。
  2. 芋がらをぬるま湯でもどし2cmに切る。
  3. 唐辛子は種をとって輪切りにする。
  4. なべに油を入れて、大根、芋がら、唐辛子を入れ、全体に油をからませる。
  5. 酢を入れて混ぜ、砂糖を入れ再び火にかけてさっと混ぜたら、弱火にして醤油を入れる。
  6. 沸騰させず常にかき混せる(パリパリ感を残すため)。
  7. 火を消して、ふたをしないで早くさます。
  8. そのまま一晩置いて、できあがり!

【地元の方の声】

・べんけいの7つ道具と言うように、7つ材料を入れるのよ。家族も大好きだったわ。
(原町区萱浜地区60代女性)

◆ 八杯(はちはい)

【材料】

豆腐     1丁
干しシイタケ 10枚
片栗粉    適量
めんつゆ   適量

【作り方】

干しシイタケを水で戻し、5mm角に切る。
豆腐を5㎜角に切り、2時間くらい水に浸しておく(くずれにくくなる)。
干しシイタケの戻し汁で、豆腐と干しシイタケをアクを取りながら煮る。
めんつゆで味を調え、片栗粉でとろみをつける。

【地元の方の声】

・報恩講(ほうおんこう)で振舞われるお汁。昔、お坊さんが、美味しくて八杯も食べたので、「八杯」の名前が付いたそうよ。
(原町区70代女性)

懐食・心のふるさと復興プロジェクト

懐かしい料理の話には、親しい人とのエピソードが必ずあります。一緒に料理を作って食べたり、お裾分けをし合ったりして会話やコミュニケーションが生まれることを願い、『懐食・心のふるさと復興プロジェクト』は立ち上げられました。

プロジェクト主宰の伏見さんは懐食を「子供たちに伝えたいからこそ親世代に伝えたい」と考えています。

最初に伏見さんに懐食を教えてくれたおばあちゃんは、現在90歳を超えて認知症になってしまいました。今ではもうご本人に料理を作ってもらうことはできません。

そして、2020年は新型コロナウィルス感染拡大防止のため各地での交流会が中止となり、懐食を作る機会が少なくなってしまったそうです。

でも「レシピとして残すことで伝統を途切れさせず伝えていきたい」「自分が体験した震災のこともレシピにのせて次の世代を繋げていきたい」と、『懐食・心のふるさと復興プロジェクト』にかける想いを語ってくれました。

3冊の懐食レシピ集を手に取りながらお話ししてくれた伏見香代さん(右)

『懐食レシピ集』のお問合せ先

今回ご紹介したのは、3冊ある懐食レシピ集のうちのごく一部です。

「他のレシピも見てみたい!」という方は相馬広域こころのケアセンターなごみまでお問い合わせください。

レシピだけではなく、地元の方から愛されている美味しいお惣菜屋さんや、地元でしか食べられない『小事飯(こじはん)』(この地域の方言で“おやつ”のこと)等も掲載されています。

これから相双地域を訪問予定の方も要チェック!です。

栗林 直美フリーライター / ヨガ講師 / 一児の母

投稿者プロフィール

ヨガと旅と育児をしながら、 好きな時に、好きな場所へ行き、好きな人と過ごす人生。もっぱらの夢は娘と世界一周すること。
「自由に自分らしく生きる母親を増やしたい」という想いから、インタビューサイト『TOIRO(といろ)』を運営しています。

TOIRO(といろ):https://10nin-10iro.com/

Naominの履歴書https://10nin-10iro.com/kuribayashi-naomi/

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