【インタビュー】被災地からロボットのまちへ 「福島ロボッ トテストフィールド」から未来をつくる

 
福島イノベーション・コースト構想推進機構 事業部長の本宮さん

福島県南相馬市の沿岸部は津波と原発事故、2つの災害に見舞われた街です。もともとは田んぼや住宅街があり、20メートルの津波がきて流されてしまいました。震災からもうすぐ10年。被災地のまちと言われた南相馬市は、ロボットのまちとして生まれ変わってきているというのです。

ロボットのまちの構想に力を入れているのが公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構が運営する福島ロボットテストフィールド(以下、RTF)です。事業部長である本宮幸治(ほんぐうこうじ)さんに「どんな施設なのか」「最終的な目標」などを伺いました。

──福島イノベーション・コースト構想とは何でしょうか?

東日本大震災や原子力災害によってさまざまな産業が失われました。これまでにあった産業を回復させるのではなく、新たな産業基盤を構築することが大切です。

「新しいことにチャレンジしよう」というコンセプトで福島イノベーション・コースト構想が国家プロジェクトとして立ち上がりました。「廃炉」「農林水産業」「ロボット・ドローン」「医療」「エネルギー・環境・リサイクル」「航空宇宙」という6つの重点分野で産業基盤の構築に取り組んでいます。

今回、見学に来ていただいたRTFは「ロボット・ドローン」の分野における中核拠点です。

──RTFでは、どんなことができるのか教えてください。

ロボットやドローンの実証実験や操縦訓練できる環境を提供しています。
また、ロボットなどの研究・開発の拠点として企業や大学などに貸し研究室を提供しています。

だいたい東京ディズニーランド1個分、50ヘクタールの敷地を使って、陸・海・空のフィールドロボットの実際の使用環境を再現しました。この3つの環境を1つのエリアで実施できる環境は、日本どころか世界にもありません。

──すごいですね!貸し研究室に対する企業や大学からのニーズはありましたか?

はい、想像以上にありましたね。最初は13室だけ用意していたのですが、第1次募集では3倍近くの応募がありました。その後の募集でも想定を上回る応募があったため、急遽、会議室を潰して、最終的には22室まで増やしましたね。

──実際に貸し研究室に入居している方はどんな反応ですか。メリット・デメリットを教えてください。

メリットは、環境が整っているのですぐにロボットの実験ができることです。研究開発のスピードが物理的に上がることが最大のメリットといえます。

デメリットは県外からのアクセスの悪さと周辺に飲食店やコンビニがないことです……。まずはコンビニが進出できるぐらい、RTFを活気ある場所にしたいです(笑)。

──いろんなロボット産業が集積すれば、叶いそうですね。

そうですね。貸し研究室の入居者やRTFの使用者が、RTFの周辺に工場を建てるなどして、この地域に根付いてもらえるような展開にしていきたいと思っています。

RTFを中核としてロボットの産業集積を図り、「ロボット産業革命の地ふくしま」を実現したいと思っています。

──「ロボット産業革命の地」いいですね!

ロボット産業革命の地になることで、多くの人たちが集まり、結果地元の産業が活性化していきます。浜通り全体の経済が盛り上がることが福島イノベーション・コースト構想の最終目標ともいえますね。

もともとロボット産業とは無縁だった浜通りですが、部品などの製造業は盛んでしたので、基盤はあるんです。メードイン福島のロボットを増やして世界に発信していきたいですね。

──日本の未来を担っていますね。東日本大震災から10年経ちますが、本宮さんから見た福島は復興しましたか?

復興の実感はあります。私自身は震災後、富岡町に出向していたこともあります。当時は、瓦屋根が崩壊したままなど、帰還困難区域は数年間手付かずの状態で、人影がまったく感じられない荒廃した地域でした。

しかし、震災から10年が経って、インフラも整い、RTFもその1つですけど、新しい施設ができています。数年前には、「まだこんな状態なんですよ」と震災のひどさを見せていた場所が、今はだんだんと無くなってきています。そういった意味では復興したといえるんではないでしょうか。

──県に勤めているからこそ、見えてくるものもがありますね。

ただ、現在もなお、避難した状態の方もいます。山林は除染されていませんし、帰還困難区域もまだあります。

いわゆる”影”の部分はまだ続いているんです。そういった意味では、光と影が共存しています。

──なるほど、最後に今後の展望をお聞かせください

RTFは今年の3月に全面開所してまだ間もない施設です。まずは、ドローンやロボットの研究・開発や実用化を進める研究者や企業などの方々のお役に立てるよう、施設の利便性や機能向上を図っていきたいと思います。

そして、ここにロボット等に関わる多くの方々が集い・交流できる環境も整えながら、ロボット関連産業の集積をはじめとした地域全体の経済活性化に貢献していきたいですね。

もう一つ重要なのは、この福島イノベーション・コースト構想を担う次世代の育成です。

私ども福島イノベーション・コースト構想推進機構は、人材育成を取組の柱の一つに位置付けていて、RTFとしても、ロボット産業を担う次世代の育成にも積極的に関わっていきたいと思います。

今年は小中学生向けのロボット・プログラミング教室を開催していて、参加いただいた小中学校からは好評をいただいています。

このような取組をさらに進めながら、その対象を高校、専門学校、大学と広げ、ロボットの魅力を伝えていきたいと思います。まだまだ課題は多いですが、これからの動きにぜひ期待してください。

──楽しみにしいます。貴重なお話をありがとうございました。

無人航空機エリア「緩衝ネット付飛行場」
無人航空機エリア「風洞棟」
水中・水上ロボットエリア「屋内水槽試験棟」
インフラ点検・災害対応エリア「試験用トンネル」
インフラ点検・災害対応エリア「試験用プラント」
インフラ点検・災害対応エリア「市街地フィールド」
メイドイン福島のロボットの活躍を楽しみにしています

福島ロボットテストフィールド

住所:福島県南相馬市原町区萱浜字新赤沼83番 南相馬市復興工業団地内
見学方法:公式ホームページから見学申込書をダウンロードして、メールにて送付
見学曜日・時間:月曜~金曜(土、日、祝日、年末年始の見学は行っておりません)

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井上 ぺるきち編集・ライター

投稿者プロフィール

兵庫県出身。
書籍の編集者を経て、現在WEBメディアにてコンテンツエディターとして勤務。趣味の街歩きや純喫茶巡りを生かして散歩ライターとしても活動しています。浜通りの散歩が楽しくなる情報を紹介します。
Instagram:https://www.instagram.com/perukiti/

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