【新しいコト・モノが生まれ、進化していく町へ 小高パイオニアヴィレッジ(南相馬市小高区)】

人と人が繋がる拠点「小高パイオニアヴィレッジ」

昨年12月、寒さが増してきた福島県に久しぶりに降り立ち、足を向けたのは南相馬市小高区。

小高は東京電力・福島第一原子力発電所の事故に伴い、2016年7月まで避難指示区域に指定されていたが、現在は一部の地域を除き解除され、人が徐々に戻り、商店や飲食店も再開し、さらに新しい動きも生まれている。1万2840人(2011/3/11現在)居た住民は現在3758人(2021/1/31現在)に留まっているが、もともと小高に居た人々だけではなく、新たに福島県外から移住してきた人々もいる。

そのような彼らが拠点しているのは、JR常磐線小高駅から徒歩10分程に位置する「小高パイオニアヴィレッジ」というコワーキングスペースだ。

半透明のグレーの外観はシンプルだが、建物の中には1階と2階が部屋の中央のひな壇で繋がり広々としたコワーキングスペースがあり、個人個人で行う作業ももちろんのこと、イベントスペースとして活用も可能だ。また1階にはキッチン、別の部屋にはニ段ベッドやコインランドリー、シャワー室などが揃った簡易宿泊施設なども完備されている。

小高パイオニアヴィレッジは2016年から株式会社小高ワーカーズベースにより構想され、2019年3月にオープン。公益財団法人日本財団による助成金やクラウドファンディングなどで資金を調達し、一から建てられた。

利用する為には会員になることが必要であり、現在の会員登録数は80名。会員メンバーは小高で新しい事業をスタートした起業家や都内の企業がサテライトオフィスとして借りテレワークの場所として利用する会社員、また、まちづくりに関心を寄せる大学生など福島県内外から集まった幅広い人々だ。彼らは、この場を利用することで、業種や年齢などを超えて繋がり刺激を与え合っている。この日も、ひな壇に座りながら事業のアイディアの意見交換などをしている様子を見ることが出来た。

また交流を生む為の工夫も行っている。2週間に1度の給食会もその1つだ。スタッフや会員が作った給食が配られる際、はじめて宿泊している人などにも声をかけるようにしているという。また、会員メンバーが自主的にキッチンを立ち、料理を振る舞うこともある。これまで、ラーメン作りが得意なメンバーが麺からラーメンを作ったり、大学生がタコライスを作ったりと交流のきっかけとなってきた。このような交流を生む理由として、小高パイオニアヴィレッジを運営する株式会社小高ワーカーズベース代表取締役の和田智行さんは、

「起業は意外と孤独な作業だと思う。最後に決断するのは自分なので、折れずに乗り越えるため起業家のコミュニティをつくる必要があるのです。」と話した。

実は和田さんには2014年頃から定期的に話を聞いてきた。

当初から和田さんが一貫して口にするのは、「地域の100の課題から100の事業を創出する」という言葉だ。今では、人や車が行き交う姿を目にする機会が少しずつ増えてきた小高だが、避難指示が解除される前は人とすれ違うこともほとんどなく、顔を合わせるのは自宅の掃除をしにくる住民などであり、夜は電灯もなく、真っ暗でその暗闇に飲み込みこまれそうな静けさだった。

震災により多くを失ってしまった小高だが、和田さんはそのような状況だからこそ0から1を生み出す面白さや可能性、希望があることを当時から力強く話していた。ぞして、その言葉どおり、実際に現在、人と人が繋がり、新しいコトが創出され、そこには未来への希望が感じられる場となっている。

地域の女性が笑顔で働く場「アトリエiriser イリゼ

このようなコワーキングスペースを運営する小高ワーカーズベースは、他にもいくつかの事業を行っている。その1つがガラス製品の製造や販売を行う「アトリエiriser -イリゼ-(HARIO Lampwork Factory ODAKA)」だ。そもそもHARIOは東京・日本橋に本社を置く老舗ガラスメーカーで、職人技術継承の為に立ち上げられたガラスアクセサリーブランド「HARIOランプワークファクトリー」を持つ。

小高に魅力的な仕事を創りたいと考えていた和田さんは、HARIOのブランドパートナーとして、生産拠点の1つを小高に設けることに繋げた。現在、小高のガラス工房では、6人の女性職人がガラスアクセサリーなどを制作し、地域の雇用創出にも繋がっている。

以前私が訪れた際、このガラス工房でガラスアクセサリー作りを体験したことがある。職人の皆さんは手際よく作業を行っている為、一見簡単そうに感じられたが、実際に手を動かしてみると思ったようにはいかず非常に難しかった。作業の流れとしてはバーナーの火にガラスをあてて溶かし、ここぞというタイミングで火から離して熱を冷まし、形を整えていく。これを繰り返していくのだが、タイミングが少しズレてしまうとガラスが溶けすぎて歪な形になってしまう。制作予定の滴の形を作るだけでも一苦労だった。職人の皆さんが日々技術を磨いて作品を創り出していることが理解できた。

女性職人たちの技術の向上は新しい作品づくりにも繋がっている。

HARIO Lampwork Factory ODAKAが創立された当初、彼女たちはHARIOランプワークファクトリー社のガラスアクセサリーを製作していた。しかし技術の向上と共に「自分たちらしい商品をつくりたい」とも考えるようになり、2019年にオリジナルブランド「iriser -イリゼ- 」を生み出した。iriserは、フランス語で「虹色に輝く、虹色に染める」という意味だ。職人の手でひとつひとつ丁寧に生み出された商品たちを手にした全ての人々の暮らしが彩られ、人生を輝かせて欲しいという想いが込められている。

アクセサリーには、千年以上続く伝統行事・相馬野馬追の馬をイメージした蹄鉄の形のガラスが揺れるものやサーフィンが盛んな南相馬の風と海を表しガラスの表面がウェーブになっているものなど小高をイメージしたピアスやネックレスが制作されている。

現在、このガラス工房は、小高駅前の建物から小高パイオニアヴィレッジ内に移転し、職人たちが日々、想いを込めたガラスアクセサリーたちを制作している。

ソトモノ×地域の資源 Next Commons Lab南相馬

一方で、福島県外から来た人々、いわゆるソトモノと呼ばれる人々も小高で事業を始めている。

小高ワーカーズベースが事務局を担うNext Commons Lab南相馬を通じてプロジェクトをスタートした起業家たちは、地域の資源を使いながら地域に必要とされる事業を展開している。このNext Commons Labは、さまざまなプロジェクトの母体であり、ビジネスの観点だけではなく、個人の価値観や生き方の表現方法として起業を定着させて、より多くの人が生きることを謳歌できる社会をつくりたいという想いを持つチーム兼コミュニティである。

現在全国10か所に拠点が存在し、その1つが南相馬市小高区であり、現在様々なプロジェクトが進んでいる。

プロジェクトの内容としては、「みんなで育てる酒蔵」をコンセプトにした酒蔵兼バーと新しい日本酒造りの事業や、「小さな幸せ」を届ける為調合したアロマを通信販売するアロマセラピー事業、相馬野馬追を大切にするこの地で馬を活用した宿泊プラン付きの乗馬体験事業、資源とテクノロジーの掛け合わせ地域の暮らしの向上と南相馬市が目指す「ロボットのまち」の実現を担う地域のシステムエンジニア事業など、全部で8つの事業がある。それぞれ中心となっている人々の中には福島県にゆかりの無い人がほとんどだ。それでもこの地域の資源 ヒト・モノ・コトに魅せられてここで生きる選択をしている。

この日は、酒蔵・新しい日本酒づくりのプロジェクトを進めている1人 haccobaの立川哲之さんに建設中の酒蔵を案内してもらった。酒蔵は小高パイオニアヴィレッジから徒歩2分ほどに位置する2階建ての築40年を超える一軒家をリノベーションし、3月頃プレオープン予定だ。取材は昨年12月下旬にした為、ちょうど作業中ではあったが、バーのカウンターや醸造の機材を置く場所など徐々に形が見えて来ていた。

提供される酒は私たちがイメージする日本酒とは少し異なるCraft Sakeというものだ。近年Craft Beerはブームとなり、様々な地域のブランドを見るようになったが、一方で、Craft Sakeはあまり耳馴染みがないように思う。Craft Sakeは日本酒(米と米麹)にハーブ、スパイス、フルーツなどを加えて発酵させたものだ。Craft sakeとして、最初に作る商品には日本酒にホップを加えた伝統製法=花酛(はなもと)という製法で作るものもあるという。日本酒の米の甘みや旨みに、地域のフルーツのフレーバーなどが加わると、どんな味が楽しめるのか。想像をするだけで早く試飲したい気持ちになる。

「4月には福島産の新しいCraft Sakeを提供できる予定です。色んな人に味わってもらいたい。」と立川さんは笑顔で話した。

今後このような起業家たちにより地域に新しい価値が生まれていくのだろう。

一方で、次世代に繋がる動きも見えてきている。

小高ワーカーズベースは、オンライン大学を主とした市民大学・さとのば大学と連携を行い、学生の受け入れも行っている。さとのば大学はキャンパスが存在せず、午前中にオンライン、午後に自分自身が考えた地域でのプロジェクトを動かしていく。生徒は本業である大学生や高校生、社会人である傍ら2か月から半年ほどかけて、さとのば大学で学びを進める仕組みだ。

小高パイオニアヴィレッジも地域のプロジェクトを進める為の受け入れ先となり、昨年の夏は4人の大学生と1人の高校生を受け入れた。1か月半の地域でのプログラムが終わったら通常帰る予定ではあったが、大学生たちは現在新型コロナウイルスの影響でオンライン授業の為、小高に残り地域との交流を続けている。

また、この4月からは、さとのば大学が通信制大学のネットの大学managaraと提携をし、4年制大学卒業の学士号取得ができるようになるという。

この地域に年間を通じて大学生が暮らす状態になり、育ててきたプロジェクトを大学卒業後も続けたいとなれば、地域に新たな人や仕事が根付いていくことになり、様々な可能性が拡がっていくことに和田さんも期待を寄せていた。

この地域の未来について、和田さんは、

「この地域で事業を立ち上げることが増えていって、特別ではない状況を目指したいですね。色々な事業者が面白いサービスをして、暮らしに彩りがそえられて面白い状況を創り出していきたい。

そして、そうゆう大人たちが子供たちの身近に存在している、そんな状況を創りたいですね。その子供たちが大人になって何もないからこの町を出ていくのではなくて、あの大人たちがやっていたように自分たちで欲しいものを創ろうと自然に想えて、アクションを起こす風土を作っていきたい。」と話した。

一度町から人が消えてしまった小高で、再び人と人が繋がり、新しいコト・モノが生まれている。半年後、一年後、数年後、小高を訪れる度に、その進化していく姿を見られるだろう。

取材日:2020年12月18日

佐々木 瞳トラベルライター

投稿者プロフィール

地域のキラキラを伝えたい 日本酒ナビゲーター 福島県とみおかアンバサダー 文化放送 ・SAKIDORI レポーター 金15時半〜 ・サンデーNEWSスクランブル パーソナリティ 日17時50分〜 東京MX東京ホンマもん教室 MC 日19時〜

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