「浜の駅 松川浦」がオープン! キラキラの海と鮮度抜群の地魚を求め、相馬の港町へ
相馬市にある松川浦は、万葉集にも詠われた景勝地で、江戸時代はこの地を納めていた相馬中村藩のリゾート地でもありました。砂や小石などが堆積していくことで入江が塞がれ湖状になっている潟湖(せきこ)という地形で、江戸時代末期から海苔の養殖が盛んに行われてきました。
港の前では獲れたての魚介類を焼きながら販売する漁師のお母さんたちの元気な声が飛び交い、春から夏にかけては潮干狩りでアサリをとったり、冬はズワイガニを食べに訪れたりする観光客で震災前は大いに賑わいを見せていたそうです。
2020年11月現在、福島県の全ての漁港は試験操業中ですが、松川浦漁港では全水産物の放射線検査をクリアしていて、津波被害と風評被害を乗り越え、本格操業を目指して地元は動き出しています。
そうしたなか、2020年10月25日に「浜の駅 松川浦」が開業しました。どんな施設なのか見てみたい、さらに松川浦の旅館街で、港町だからこそ食べられる旬の魚介を使った料理を味わいたいと、1泊2日の小旅行に出かけてきました。
JR相馬駅近くのバス停留所からバスに揺られること約20分。松川浦のバス停で下車すると、宿泊先のホテルみなとやが、松川浦大橋に近い場所に立っていました。
荷物を置いて、早速ホテルから徒歩5分ほどの浜の駅 松川浦へ。
平日の14時前にもかかわらず、駐車場はひっきりなしに車が出入りしていて、たくさんの人で賑わっていました。
まずは遅めのお昼を食べようと、飲食エリアの「浜の台所 くぁせっと」へ。海鮮丼やしらす丼、旬のお魚フライ定食など、常時10種類以上あるメニューに目移りしながら食券を買う列に並びます。
「地魚丼」(900円)と限定10食の「あんこうの唐揚げ定食」(1000円)と悩んだ末、「3つの食べ方ができる」と案内のあった「地魚丼」を選びました。 入り口で食券をスタッフに渡すと、乾燥したあおさが入ったお椀を手渡されました。横に「出汁バー」があり、日替わり2種類の出汁のどちらかをお碗に注ぎ、マイ碗を完成させるそう。この日の出汁は、ホッキ貝とヒラメ。ここでも大いに迷いました。
「旬の地魚の美味しさを知って欲しい」と、くぁせっと代表の管野貴拓さんは、仲間たちとメニュー開発をこだわったと言います。
「相馬沖は遠浅で砂地が多いので、特にヒラメとカレイはよく獲れます。食べていただいた『地魚丼』はその時期におすすめしたい2種類の魚を提供していますが、ヒラメと鯛とか、ヒラメとサワラなど、1種類はヒラメが入ります。ワサビ醤油も美味しいんですが、白身魚は淡白なので、飽きずに食べてもらえるよう、漬けにしたり出汁をかけてお茶漬けにもできるようにしました。年間を通して獲れるカレイは、実は10種類以上いるんです。だから『旬のカレイ3種御膳』にして刺身と煮魚と唐揚げで提供したら、種類の豊富さも伝えられて、食べ方の提案もできると考えました」。
客側が自分で「マイ碗」を作るアイデアも、自前で鮮魚をおろしているからこそできること。仕込みでたくさん出るアラを活用して旨味たっぷりの出汁を取れるうえ、出汁バーを設けることで楽しみも生まれると考えたのだそう。
仕入れる魚は、浜の駅の仲買さんに取り置きしてもらい、くぁせっとを一緒に運営している漁師さんが選んだ極上の品を扱っているそう。ラストオーダーは14:30。お客さんが列をなしているならもう少し営業時間を長くとればいいのにと感じましたが、スタッフの方々は閉店から夜遅くまで仕込みに入るとのこと。素材の鮮度だけに頼らず、どう食べてもらうか調理法までこだわったメニューの数々。舌の肥えた港町の人たちが行列をなす理由がわかりました。
お腹が満たされたところで、次は販売部門へ。水産物がほとんどかと思いきや、地元や福島、隣県の土産物から、地元の方がちょっとした買い物に使える野菜や菓子類、パンやお弁当など幅広い品揃え。スーパーマーケットのようです。
店長の常世田隆さんにお話をうかがうと、くぁせっとに負けず劣らず、販売部門も品揃えにこだわりがありました。
「水産物に関しては、漁港から200メートルくらいしか離れていないので、地元の魚介類がお買い得な価格で提供できる、これが一番の売りです。ただし県内はどの漁港も試験操業中で漁に毎日は出ないので、ショーケースが品薄になってしまう日もあります。だから宮城、茨城、岩手といった近隣県の、特に東日本大震災で物的被害を受けたり、風評被害を受けたりしている地域から選りすぐった、良質な水産物も置くようにしています」
確かに水産物売り場には、地元以外の商品のショーケースも多かったのですが、説明ポップがあって、楽しい印象を受けました。
土産品は地域商品コーナーとして相馬のものを中心の品揃え。加えてお菓子や食料品は、常世田店長が売れ筋商品を探して回り、隣県の宮城県や山形県の現地に行かないと購入できない商品も揃えているそう。「お弁当は、相馬の味に定評がある天狗食堂さんに、ホッキ飯のおにぎりやはらこのお弁当など、浜の駅に合うものを作っていただいています。
「漁港の本格操業の実現には、風評被害の払拭は必須だと思っています。だからこそ、浜の駅では、漁師とお客様をつなげていけるようなイベントを企画中です。例えば漁のない火曜と木曜には漁師さんに来てもらって、獲る魚に応じた漁法を紹介してもらえないかとか。松川浦漁港にはイケメンの漁師さんが多いので、盛り上がると思うんです」と、今後は買いもの以外の楽しみ方も増やしていくそう。
店を切り盛りする人たちのこだわりは、商品の品揃えや味から消費者にも伝わるもの。浜の駅 松川浦は、次に何を食べようか、何を買いに行こうかとワクワクする店でした。
販売部門で地元産の商品をお土産にしたいと物色して外に出ると、あっという間に夕暮れ時に。ホテルみなとやでは、料理長が腕によりをかけた魚づくしの夕食が待っていました。地元の魚を使い、料理長が腕によりをかけた料理がずらりと並びます。
宿泊した11月中旬時の夕食。
1泊2食8800円とは思えないほど豪華です! 若女将の管野忍さんに説明してもらいました。
1、お造り
ホッキ貝、タコ、イナダ(味噌たたき)は地元で水揚げされたもの。
2、ヒラメのムニエル
意外にも洋食メニューで提供されたヒラメ。ヒラメは刺身の提供もありますが、ムニエルにすると身がふんわりしてこちらもおすすめなのだそう。淡白な身にバターたっぷりのソースで、味の変化にも一役買っていました。
3、カスベの唐揚げ
カスベとはエイの一種で、こちらも一年中獲れるそう。軟骨のようなコリッと感がありました。
4、ガザミ鍋
春から秋にかけて獲れる渡り蟹。カニの旨味が出汁にたっぷりでるうえ、カニの身も味わえるのでおすすめなんだそう。味噌ベースになっていたので、汁も飲み干せました。
5、6、あさりの釜飯
最初はそのまま、その後バターとあおさを入れていただきました。
7、マガレイの煮付け
カレイは一年中提供している松川浦の名物。甘醤油ベースで地酒と好相性でした。
8、大女将の自家製塩辛
この日は冬によく獲れるヤリイカでした。臭みがなくて白いご飯にも合いそうでした。
松川浦の旅館組合の一部の宿で、朝食に釜飯を提供する予定があり、夕食でいただいたあさりの釜飯は、来年(2021年)中旬くらいからは、朝食で食べられるそうです。「春から夏にかけては、松川浦でもアサリが獲れるのですが、地元のものはサイズが大きいので、ぜひ食べに来てください」と若女将の管野忍さん。
東日本大震災時、津波を直接受けた相馬港に比べれば、松川浦は砂洲があった分、被害を若干は抑えられた面もあるようです。とはいえ津波が到着する前に沖に出られなかった多くの船が流されるなか、ホテルみなとやは、1階の天井まで浸水しました。2階以上が浸水しなかったことが幸いし、2011年の10月に営業を再開し、復興作業にあたる人たちの宿としても重宝されたそう。
「震災後の松川浦やこのホテルがどうなるか、心配はつきませんでした。でも漁師さんたちが自分の網を探して歩いている後ろ姿を見たとき、漁を続けようとする漁師さんたちがいるかぎり、自分たちもその魚をお客様に提供していかなければと思ったんです」(忍さん)。
松川浦には、心をこめたもてなしでかつての賑わいを取り戻そうとする浜の駅 松川浦のスタッフや、松川浦の旅館の方々の姿がありました。
浜の駅 松川浦から原釜尾浜海水浴場を通り10分ほど歩くと、松川浦や相馬港をはじめ、相馬市の東日本大震災の様子を伝える相馬市伝承鎮魂記念館があります。こちらにもぜひ足を伸ばしてください。
<<訪れた場所・お店>>
施設名:浜の駅 松川浦
住所:相馬市尾浜字追川196
売り場(物販部門)
営業時間:9:00~18:00
電話番号:0244-32-1585
浜の台所 くぁせっと(食堂)
営業時間:
平日11:00~14:30(LO)
土日祝10:30 ~14:30(LO)
店舗専用電話:080-8015-6417
施設名:ホテルみなとや
住所:相馬市尾浜字追川137
電話番号:0244-38-8115