表現やデザインを身近に感じられる場所に ~表現からつながる家 粒粒~

 

南相馬市の桃内駅の近くに、デザイナーが運営するアトリエ的な場所ができたらしいという話が、浜通り界隈の人たちの間で話題になっていた。

その場所の名前は、表現からつながる家「粒粒(つぶつぶ)」。

面白そうな予感しかしない。どんな場所なのか、訪問して話を伺った。

 

 

「粒粒」は、震災前から空き家になっていた平屋の一軒家を改装した、「粒粒」の代表・デザイナーの西山里佳さんのデザイン事務所だ。

そのデザイン事務所を、イベント時などには地域に「ひらいて」いる。

「デザインの仕事をしているときも、イベントをしていても、道路に面した大きな窓から中の様子が見えるんです。そうやって、デザインや表現の場を、外に染み出させている感じです」と西山さん。そのいきさつを聞いてみた。

 

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双葉郡富岡町出身の西山さんは、高校卒業後上京。東京で、CDジャケットのデザインなど、グラフィックデザインの仕事をしていた。

東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所発生後も、しばらくは東京で仕事を続けたが、デザインの一部だけでなく、企画やコンセプトづくりから「まるっと」つくりあげる仕事をしたいと、震災後の福島に可能性を感じ、Uターンした。

 

いわき市でデザインの仕事をしているときに出会ったのが、自治体と連携しながら起業家支援などを行っている団体・ネクストコモンズラボ(以下、NCL)だった。NCLの「ポスト資本主義社会を具現化する」というコンセプトーー今の社会を変えるのではなく、新しく「社会をつくる」ことに力を注ぐーーという部分に大きく共感した西山さんは、調べていくうちにNCLの拠点が福島県内の南相馬市にあることを知り、NCL南相馬でコーディネーターとして働くようになる。

西山さんがNCL南相馬に入った2018年当時はまさに立ち上げの時期で、NCL南相馬の拠点である南相馬市小高区で、起業を目指して働く人材=起業型地域おこし協力隊の募集活動や、拠点の整備、移住してきた人たちの住居の手配など業務は多岐にわたり、西山さんはまさに「まるっと」仕事をデザインするようになった。

事業を進めるにあたって、デザインの仕事は必ず発生するもの。人材募集やイベント開催のチラシ、事業を説明するパンフレット、名刺のデザインなどのグラフィックデザインから、拠点の内装や物の配置などの空間デザインなど、実はデザインは日常にあふれている。

しかし、特に地方では「デザインの仕事」がなかなか可視化されていないと感じていた西山さんは、NCLのコーディネーターから起業家側に転身して、デザイン事務所をオープン。自身の仕事を見えるようにすることで、デザイン・デザイナーを身近に感じて欲しいと、仕事の拠点としながら「粒粒」として外にも「ひらく」ことにしたという。

 

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「粒粒」は、普段は西山さんの「marutt株式会社」の仕事場で、イベントの際にはその仕事場をアトリエとして開放している。

自由な手法で冊子をつくるZINEづくりのワークショップや、「粒粒」のキャラクター「つぶくん」の立体ペインティングを行ったりと、子どもから大人まで楽しめるイベントながら、そこにはデザインや表現を体験できる手法を忍ばせている。

「ZINEのワークショップでは『セミオリジナル』ということで、クリエイターや地域住民、約40名が制作した80種類以上のページから、自分の好きなものを選んで組み合わせて冊子に綴じるのですが、その作業が実は、編集やデザインそのものなんです。立体ペインティングも、作り手の想いや性格が現れる表現の場。そうやって、デザインや表現を身近に感じながら、デザインに興味を持ってくれる人が増えたらなと思っています」と西山さん。

また、デザインに関する相談室を開き、地元の人たちのデザインに関するお悩み相談にも乗っている。「こうして場を開いていることで、話をしに来てくれる地元の人が少しずつ増えてきているのはうれしく思います」と笑顔を見せる。

 

 

「粒粒」の大きな窓からは、田んぼと広い空が見える。そんな場所で仕事をしているからこそ、感じることがあるという。

「南相馬市、特に(長く避難指示が出ていた)小高の人たちは、自らの意思で前向きに町に戻ってきた人がほとんどです。そういった人たちと外から来た人たちと一緒に、地域資源をテーマに勉強会やイベントをやってみたいとか、この環境に身を置いているからこそやりたいと思うことがたくさんあります」と西山さん。「私が初めて小高に入っていった時、地域の人たちはとても気にかけてくれて、ウェルカムな空気感でした。これからは受け入れ側として、私も同じようにポジティブに迎えていければと思っています」。

 

そんな西山さんの思いを具現化すべく、「粒粒」ではこれからも、さまざまな形で表現やデザインに触れる機会をつくっていくという。

田んぼや川のせせらぎを感じながら、自然とクリエイティブな体験ができてしまう場所「粒粒」。これからの活動が、非常に楽しみな場所だった。

 

 

文・写真 山根麻衣子(双葉郡在住ローカルライター)

 

 

 

“表現からつながる家” 『粒粒(つぶつぶ)』

住所 南相馬市小高区耳谷表6
インスタグラム
https://www.instagram.com/tubutubu_odaka/

※イベント時以外に訪問される場合は、事前にお問い合わせください

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