創業40年超。お客様の笑顔を愛する コーヒー専門店「讃香」

どこか懐かしい感じのする喫茶店

 JRいわき駅から徒歩3分の距離に珈琲専門店「珈琲市場 讃香」はある。店名は、香りを讃えると書いて「さんが」と読む。

 夕方の午後4時前、ふらっとこのお店を見つけて足を運んだ。再開発が進み、キレイに整備された いわき駅から目と鼻の先に、昭和の香りただよう空間を見つけた。昼間は閉店中の居酒屋やラーメン屋ばかりが立ち並び、なかなか喫茶店が見つからない中で、ようやく隠れ家に辿りつけたような気がして、ほっとした。

店内に一歩足を踏み入れると、まるでタイムスリップしてきたかのようなどこか懐かしい空気が流れている。席について一息つくと、聴こえてきたBGMは昭和の歌謡曲。自家焙煎のこだわりのコーヒーの味はもちろんのこと、純喫茶風のどこか懐かしい雰囲気も、地元の人たちから愛されている理由のひとつなのだろう。

現在の場所に移ってから13年と店舗自体は比較的新しい。しかし、お店の歴史は長く、昭和55年の1号店開店から今に至るまで実に40年以上にわたって、店主の出待さんは、年中無休で営業を続けている。

コーヒーを抽出する店主の出待さん

コーヒーへのこだわりがお客様を惹きつけるのはもちろんのこと、クスッと笑顔がこぼれるようなメニューがお店の入り口に掲げられており、そうしたメニューを考案する店主の人柄もまた当店の人気の秘訣だ。

転機はお客様の笑顔が消えた3.11

 年中無休の「讃香」には1ヶ月ほどお店を休んだ歴史がある。2011年3月11日、三陸沖を震源地として発生した東日本大震災の直後だ。震災は沿岸部を中心として、いわき市内にも大きな被害を及ぼした。いわき市の発表(令和2年12月16日現在)によれば、関連死138名を含む468名が震災により死亡し、一部損壊を含む建物被害は91,180棟にのぼった。讃香が店舗を構える、いわき市内の平地区でも水道が止まるなどしたため、震災後しばらくは、休業を余儀なくされた。

震災から1ヶ月ほどが経過した後にお店を再開し、常連さんをはじめとして少しずつお客様は戻ってきたが、いつもとは様子が違っていた。お客様から笑顔が消えてしまったのだ。それもそのはず。常連さんのほとんどはいわき市に暮らしているが、福島県内をはじめとした東北地方で暮らす親戚を持つ方も多い。そのため、常連さん自身やその家族、親族の中には被害者がおり、家の損壊なども含めれば、周囲に震災被害と無縁な人を探す方が難しい状況にあった。久々にお店に足を運んでくれた常連さんに対して、顔色を伺いながら「どうでしたか?大丈夫でしたか?」と、声を掛けるのが精一杯だった。中には、声を掛けるのもはばかられるような人もいた。そんな東日本大震災が、讃香にとってのターニングポイントにもなった。

 店主の出待さんは「自分はコーヒーしかできないから」と語るが、この状況を乗り切るきっかけとなったのが、喫茶店の存在だった。

 お客様の笑顔を見たい、笑顔を取り戻してほしい、と強く願うようになり、喫茶店にできることはないのだろうか?そんな事を考え、スタートしたのが当店名物(?)の変わり種メニューの数々だ。2010年に放映されたNHK大河ドラマ龍馬伝にあやかり「龍馬の日記」という名称で坂本龍馬をあしらったカプチーノを提供するようになった。その他にも「うただひかるパフェ」「ドラえもんとかぐや姫セット」「イチローパフェ」などの気になる名前がメニュー表のあちこちに並んでいる。

 「お客様にクスッと笑ってほしい」「お客様の笑顔を見たい」そんな想いからはじまったこれらのメニューは、地元テレビ局からの取材でも取り上げられるなど、今や当店の代名詞ともなっている。

香りが引き立つサイフォンで

 どうしても変わり種メニューに目が行きがちにはなるが、コーヒー専門店であり、コーヒーへのこだわりは強い。「コーヒーは、炒りたて、引きたて、淹れたてが美味しい。」そう語るオーナーは、次の日の分のコーヒーを前日にひくのがこだわり。生豆を仕入れ、店内に置かれた焙煎機を用いた自家焙煎にこだわっている。

 淹れ方にもこだわりがあり、こだわりのコーヒーはサイフォンで抽出される。2杯分のコーヒーと共に、冷めないようにするための固形燃料とマッチが合わせて提供される。

サイフォンで提供される2杯分のコーヒー

 一般的にサイフォンで淹れた珈琲は香りがよいとされるが、豆の品質が良くないとおいしく飲めないとも言われる。豆の品質に自信があるからこそ、サイフォンで提供しているのではないだろうか。

店内のカウンターにズラリと並んだサイフォン

40年以上続く讃香の歴史

 昭和51年(1976年)に常磐炭礦西部礦が閉山し総撤退完了が完了。そんな地域の動きも出待さんの人生に影響を与えている。4人兄弟の長男としていわき市「好間」で生まれ育った出待さんは東京へと出た。そこで出会ったのがコーヒーだった。1970年代は自家焙煎などこだわりのコーヒーを提供する珈琲専門店が注目を浴びた。1981年には喫茶店の数が全国で15万店舗を超えてピークに達するなど、空前のコーヒーブームを迎えていた。そのタイミングで東京にいた出待さんは、東京の喫茶店で働くようになり、5〜6年ほど働く中でコーヒーを学び、その魅力に惹かれていった。いつかは自分の店を、と考えていたが、母親が倒れたことをきっかけに、いわきに戻ることを決めた。

 昭和55年、地元いわきに戻り「いわき湯本」で出待さん自身にとって1店舗目となるお店をオープン(1980年12月25日)した。今からおよそ40年前のことだ。いわき湯本で20年ほどお店を構えた後、現在のお店からほど近い平地区へと移転。現在、いわき駅前再開発複合ビル「LATOV(ラトブ)」のエレベーターがある場所の辺りに、2店舗目のお店を構えていた。いわき駅から飲み屋街へと続く場所に位置していたこともあり、飲みにいく前後に立ち寄る人達が訪れ、お店は夜遅くまでお客様で溢れかえっていた。7年ほど同地で営業をしていたが、駅前再開発事業の対象エリアとなり、2007年7月から現在の場所に移転。2度の移転や震災を含む、数々の苦労を乗り越え、2020年には開業40周年を迎えた。

時代の流れもあり、店内でスマホをいじる人が増え、会話が少なくなりがちだ。そうした現状について「1人で訪れる方にはくつろぎの時間を、2人以上で来る方には談話の時間を」と喫茶店での時間の過ごし方についても語っていた。店内に何冊か置かれていた、ノートに書かれたメッセージにも、出待さんの想いが詰まっていた。

店主の出待さんは「コーヒーしかできないから」と語るが、讃香は、歴史と店主の想いが詰まった珈琲専門店。店内ではスマホをいじる手を少しだけ止めて、珈琲の味と香りを楽しみながら、会話を楽しんでほしい。

営業時間 9時〜21時。年中無休(来店時は事前に確認ください)

住所 〒970-8026 福島県いわき市田町62−3

電話 0246-35-6885

人気のメニューは、食事メニューだとピラフやホットサンド。ボリューム満点のハンバーグホットサンドが特に人気が高い。デザートメニューでは、チーズケーキが人気。

桂川融己トラベルライター

投稿者プロフィール

得意分野は、好奇心の高さとフットワークの軽さを活かした繋ぎ役「コネクター」。 ミャンマーでインタビュアー兼ライター兼編集やら、マーケティング支援など。 日本生命で8年弱働き、現地採用でミャンマー・ヤンゴンへ。 日系企業向け人材紹介会社業で2年間働き、その後フリーに

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