福島がロボット開発の一大拠点になる未来を垣間見た見学会レポート

 

福島ロボットテストフィールド

 福島県に壮大なイノベーション構想があるのをご存知だろうか?

 未来を創造するための国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」だ。その中でも、私が強く興味を抱いたのが「福島ロボットテストフィールド」。

福島ロボットテストフィールドは、陸・海・空のフィールドロボットの一大開発実証拠点。インフラや災害現場など実際の使用環境を再現した施設が配置されており、ロボットの性能評価や操縦訓練等が可能な拠点。ネット上で調べられる情報は事前に調べ上げつつも、「百聞は一見に如かず」の精神で、情報は頭に入れつつ当地に足を運んでみた。

 フィールドの見学会と、実際に同地で開発を進める担当者に伺ったお話を元に、ロボットフィールドの将来性を感じていただければ幸いです。

いざ、ロボットフィールド見学会

 取材を申し込ませていただいたタイミングで、特別に見学会に参加させていただく機会を得られ、施設を見て回る機会を得たので紹介させていただきたい。

(写真)見学会でエリアに入る際はヘルメット着用

 敷地面積は、東西 約 1,000m、南北 約 500mとかなり広いエリアが確保されている。エリアは大きく4つに分かれており「無人航空機エリア」「インフラ点検・災害対応エリア」「水中・水上ロボットエリア」「開発基盤エリア」があり、文字通りの陸・海・空のフィールドロボットの開発拠点として、実証実験ができる設備が整っている。世界の中でも、陸・海・空すべての設備が一箇所に揃った場所はないらしい。今回の見学会では、陸・海・空すべてのテストフィールドを見学させてもらった。見学会で実際に足を運び、説明を受けた施設に関して、写真と共に見ていただきたい。

 ※実際には、当記事に記載のない設備もあるため、そちらはぜひ福島ロボットテストフィールドのウェブサイト(https://www.fipo.or.jp/robot/)等で確認ください。

「陸」の施設

試験用トンネル、試験用橋梁

ロボットによるインフラ点検と災害対応の実証試験のために整備される国内唯一の試験場。トンネル、橋梁、プラント、市街地、道路等の構造物の中で、想定されるほぼ全ての災害環境、老朽化状況を再現可能。

(写真)プラント施設を再現した施設。人の大きさからもその規模が伝わるだろう。

鋼・コンクリート製の4種類の形状の橋梁で、老朽化や障害物を再現し、状況確認や点検に関する試験や操縦訓練を行う施設です。点検対象となるコンクリートのひび割れ・剥離・うき、鋼材のボルト緩み・亀裂や、点検時に障害となる照明柱や防護柵を再現しており、トラス、ケーブル管等も設置できます。

(写真)トンネルを再現した施設

(写真)トンネルの壁には、ひび割れを再現したブロックも。

 トンネル中での交通事故、崩落、老朽化を再現し、状況確認、捜索、瓦礫除去、老朽化点検に関する試験や操縦訓練を行う施設。高速道路や一般道の照明(LED灯、ナトリウム灯)、ジェットファンなどを設置し、壁面には点検対象となるひび割れやうきが再現されている。内部に車両、瓦礫、岩石、土砂など障害物を自由に配置・固定できるほか、両側シャッターを閉鎖して長大トンネル中央部を再現できる。

 実際に、トンネル内でロボットを動かそうと思えば、トンネルを塞ぐ必要があるが、一般道でそんな事はなかなかできない。当施設では、トンネルを再現した施設を通じて、ロボットによる老朽化の検査や、トンネル事故時のロボットでの対応などを実証実験できるようにしているのだ。

(写真)橋梁施設。ドローンでの作業現場の再現などが可能。

「海」の施設

屋内水槽試験棟

(写真)大水槽

(写真)小水槽

(写真)廃炉作業時等に利用することを想定したロボット。ケーブルを通して信号を送り、水中でも操作が可能。

ダム・河川・港湾等を再現し、水中・水上ロボットによる点検・調査に関する試験や操縦訓練を行う施設。大水槽では、老朽化した水中構造物を模したテストピースを備えるほか、点検対象物の設置、水流の発生、暗所の再現が可能。小水槽では、濁度を調整して、搭載する観測機器の性能を試験できる。

 水槽は大水槽と小水槽が2つあり、それぞれ 30m x 12m x 水深 7m と、5m x 3m x 水深 1.7m の広さ。当日は、廃炉の作業を想定した水中ロボットの操作を見させていただいた。

実際に、子供たちに操作してもらう場面もあり、楽しそうに操作している光景を見ていて、彼らの中から将来ロボット開発に携わる人が出てくる未来が想像でき、見学会の意味を強く感じた瞬間でもあった。

「空」の施設

風洞棟

(写真)風洞試験装置の説明と、これから飛ばすドローン。

(写真)正面から見た風洞試験装置。機械の下の 0.0 は 現在の風速表示。

無人航空機の空力特性、飛行性能、積載性能、突風・脈動風への機体の安定性を試験できる。最大風速 20m/s まで対応が可能。

当日は、ドローンを飛ばし、そのドローンに対して強風をあてる様子を見学させていただいた。かなり大きな音をあげて風が吹き付ける中を飛ぶドローンの様子が目に焼き付いている。

(写真)実際に ドローンを飛ばしている様子。右の旗が強くなびいているが、ドローンは平行を保ったまま飛んでいた。

 山や海岸などの風が強い場所や台風などの強風時を再現する事ができるため、自然災害の多い日本における無人航空機の実用化に向けた実験を行うことができる重要な施設だと感じた。

緩衝ネット付飛行場

上面・周囲をネットで覆った航空法適用外の飛行場。風雨・日照のある野外環境下で、無人航空機の基本的な飛行性能や自律制御等の評価試験、操縦訓練を行うことができるほか、夜間飛行、物件投下などを法律上の事前申請なしで実施可能。広さは150m x 80m x 有効高さ 15m。

(写真)ネットに囲まれた空間。このネットの下なら航空法適用外となり、様々な実験を行うことができる。

 当日は、ガソリンで飛ぶドローンの飛行、水素で飛ぶクリーンなドローンの飛行を見せていただいた。現在のドローンは、充電池で飛行しており、電池の性能の制限により、40分程度の飛行が限界。ガソリンにすることで、災害現場などでの長時間飛行が可能になる。一方で、ガソリンエンジンは、かなり騒音も激しく環境負荷がかかるのも事実。そこで、研究開発が進むのが水素燃料で飛ぶドローン。危険物ではあるため、実用化に向けたハードルは高いが、環境負荷も考えるとかなり有効な手段として注目が集まる。

(写真)ガソリン動力で飛ぶドローン。現行のバッテリー駆動のドローンより飛行時間が大幅に延びるが、騒音と環境負荷が懸念。災害時等を想定している、とのこと。

(写真)水素ガスを動力にして飛ぶドローン。静かで、騒音も少なく、環境負荷も低い。しかし、水素は危険物でもあり、現行制度の下で運用するには実用化ハードルが高いのが現状。

 当日、飛行場での飛行実験を見せていただいたが、エリア内での実証実験はほぼ完了しているそうだ。実用化に向けた課題は国による規制緩和、だと開発者の方が話していたのが印象的だった。

 危険物が空の上を飛ぶとなれば、住民の安全を守るためにも規制が必要となってくる。しかし、その規制が開発や実証実験などの妨げになっているのも事実。中国やアメリカなどが、ドローン分野で抜きん出ているが、その要因の1つは、規制の緩さも影響しているだろう。その事は国も認識しており、ドローンに関しては、空の産業革命に向けたロードマップ(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/drone.html)を作成するなど、段階的に、物流・災害対応・農林水産業・インフラ維持管理・測量・警備業などの分野毎に利用範囲を広げるべく、ロードマップを描き、環境整備を進めている。

 当地に集まる知見やノウハウが、今後の日本の空のロボットの可能性を広げ、活躍範囲を切り拓いていくのだろう。

最後に

 陸・海・空、すべてのフィールドを見学させていただいた事で、かなり具体的にロボットが日本や世界の各地で活動している姿を思い描くことができた。

 この福島ロボットテストフィールドでの実証実験を通じて開発された日本発のロボットが、実際に日本や世界で稼働する姿を見る日はそれほど遠くないのかもしれない。

 ※今回の記事は見学会で見て回った設備を中心に紹介しています。実際には、当記事に記載のない設備もあるため、ぜひ福島ロボットテストフィールドのウェブサイト(https://www.fipo.or.jp/robot/)等で確認ください。

桂川融己トラベルライター

投稿者プロフィール

得意分野は、好奇心の高さとフットワークの軽さを活かした繋ぎ役「コネクター」。 ミャンマーでインタビュアー兼ライター兼編集やら、マーケティング支援など。 日本生命で8年弱働き、現地採用でミャンマー・ヤンゴンへ。 日系企業向け人材紹介会社業で2年間働き、その後フリーに

この著者の最新の記事

関連記事

ページ上部へ戻る