新地町の総力が生み出した日本を代表するクリエイティブな公園【-TSURUSHI-釣師防災緑地公園】
2019年12月にオープンした-TSURUSHI-釣師防災緑地公園。
緑豊かな公園に遊具、海沿いのバーベキュー場にオートキャンプ、さらには2020年7月にオープンしたばかりの本州初となる世界トップレベルのアスファルト舗装のパンプトラックコースも併設された、アウトドアを楽しむ子供から大人まで1日中遊べる公園です。
宮城県との県境に近い福島県新地町はホテル宿泊を目的に訪れたものの、たどり着いた時から広大な土地と広い空、建物がとても少なく新しく整備された道路の町自体にとても惹かれるものを感じました。
手つかずの大自然と町の機能を融合させたような、人工的で商業的なものではなくサステナブルな未来都市に来た感覚です。
新地町から南下して浜通り近辺を回る予定でしたが、新地町をもっと知りたくなり訪問したのが釣師防災緑地公園です。
入り口にまず登場するのは「海の丘」という名の空中歩道。
空中歩道なんてアイディアが一体どこから出てきたのか!と国内外のキッズスペースや空間デザインをリサーチするのがライフワークな私のこの公園に対する興味がどんどん膨らみます。
空中歩道を歩み進めると公園内の個性的で現代的な遊具が高い視点から一望できます。
昭和生まれの私が幼少期に遊んだ遊具とは比べ物にならないほど洗練されたデザインです!
そして各遊具間の距離よ。
真の贅沢とは、多いことではなく余裕があることだとこの景観から人生に大切なことを教えてもらえます。
「遊具は全てこの新地町釣師地区の海にまつわるまつわるものをコンセプトにデザインしてもらったオリジナル遊具です。」と教えてくださったのは釣師防災緑地公園パークセンターの川上照美さん。
突然の訪問にも関わらず、公園の自然環境中での空間デザインと遊具のクリエイティビティのレベルの高さに圧倒されていた私に川上さんは親切に話しかけてくださり、丁寧に説明をしてくださいました。
「この場所は2011年3月11日の津波で住宅が全て流された跡地なのです。当時、釣師地区には159世帯500人ほどが暮らしていましたが全流出しました。3.11の1年前のチリ地震で、宮城県沖は津波による注意勧告が出たものの、この新地町ではチリ地震の余波はなかったため、3.11は本当にまさかの津波だったのです。
園内で一番高い想いの丘は、津波の高さといわれる10メートルの高さがあり、慰霊碑、震災モニュメントなどがあります。」
公園のパークセンター内には、震災前の釣師地区を再現したジオラマが展示されています。
この地の整備された新しい道路は、古きを切り捨てゼロから真新しく作り直す都心部の開発とは違い、復興の証なのだ。
そして国営公園などには国の予算が投入される中、この釣師防災緑地公園は新地町の復興まちづくりへの強い思いと力で創られた公園とのこと。
「減災」・「交流促進」・「震災アーカイブ」機能をテーマにしたコンセプトを見事に表現したこの公園創設に携われた方々の、クリエイティビティと視座の高さに感服します。
安易な発想で真似ごとばかりのキッズスペースや、自然やその地の文化を全部無視した都市開発が多発する日本で、ヨーロッパのアート・デザイン思考と変わらないコンテクストを意識した創造に出会えるとは予想していませんでした。
いずれ訪れる未来では常識となるかもしれない、けれど、現時点での日本では例を見ない、自然と人類の調和を実現した最先端のデザインプロジェクトと言えるでしょう。
国のせいにせず。
有名デザイナーの名前に頼らず。
リスクを含めた自然への敬意を忘れない真摯な精神と、人間の頭脳から生み出す力の総結。
新地町の釣師防災緑地公園は福島県の枠にとどまらず、日本を代表するデザインプロジェクトの成功事例です。
パークセンター内のレモネードスタンドに掲げられた言葉
“If the life gives you lemon, make lemonade!”
人生があなたにレモンを与えるなら、レモネードを作ればいいのよ!
ヨーロッパの都市では夏になると至る所にレモネードスタンドが出店され、日本にも増えたらいいのになぁ、と長年願っていてここ数年ようやく表参道で見かけるようになりました。
本当に視座の高い公園です。
TSURUSHI-釣師防災緑地公園-
住所:〒979-2702 福島県相馬郡新地町谷地小屋北畑11-1
営業時間:9:30-17:30(4月~12月)
休館日:火曜(年末年始の休館日12/29〜1/3)