木戸川漁協に、都会の若者がやってきた!

 

サケ、というロマン

水面を覗き込んでようやっと見えるか、見えないか。

そのくらい小さかった彼らが、4年をかけて世界の海を巡り、成長し、産卵のために帰ってくる。。。

家庭の食卓にも、学校や勤務先で食べるおにぎりにも、旅館での朝食にもいてくれる。


この国の日常に寄り添う、鮭という魚。


彼らの生涯には、普段のスーパーマーケットに並ぶその姿からは想像が付きづらいほどに壮大な浪漫があります。

そんなロマン溢れるサケのふるさと・楢葉町では、今年も漁が行われました。

今回は、その漁の様子と、サケを愛し、町を愛し、木戸川でのサケ漁の復興に取り組み続ける木戸川漁協さんをご紹介します。

木戸川とサケ漁

楢葉町を流れる、木戸川。

そこで行われるサケ漁は、合わせ網・地引き・ヤナ漁の、全部で3種類。

中でも、10数人の漁師さんたちが2つの網を使ってサケを追い込んで川辺まで引き上げる合わせ網漁(上写真)は、楢葉町の名物です。

というのも、震災前には一度の漁で3000〜4000匹、全部で10万尾を超えるサケが獲れた年もあり、遡上してきた、黒々としたサケの姿が土手から見てもわかるほどだったそうです。

一尾あたり1m弱のサケが、3000〜4000匹。

ぎっしりと詰まった網を、漁師さんたちの手で地元の川辺に引き上げられていく姿を想像してみると、なるほど名物というのも納得がいきます。

しかし、この秋揚がったサケの数はトータルで500匹ちょっとでした。

震災後、楢葉町は5年間立入禁止区域となってしまったため、その間稚魚の放流を行うことが出来なかったことが、大きな原因です。

加えて、ここ数年は太平洋側全体で不漁が続いてしまっていることや昨年の台風でヤナ場が壊れてしまったことも原因として考えられています。

サケから繋がる、新しい輪

ここ木戸川漁協でも漁師さんは高齢化が進んでおり、その推定平均年齢は何と70歳以上。

ですが、この秋はちょっと様子が違った様子です。

実は11月頭の数日間、いわき市の「チャレンジライフプログラム」の一環で、東京から来た3名の若者がサケ漁に参加していました。(*)

木戸川漁協に到着後、組合長から町のお話を聞きます。

震災前の楢葉町、減ってきてしまっているサケの数のこと、そこには温暖化も関係していると言われていること、放射能検査のこと、この地域の方言のこと…。

普段の彼らが大学で学んでいることなどもシェアしながら、話に花が咲きました。

そしていざ!サケ漁のスタートです。

先程ご紹介したすべての種類の漁に、漁師さんたちに混ざって若者たちがお手伝い。

川に入って上網と下網を仕掛けていると…。

「だいじょうぶか〜〜〜転ぶなよ〜」

「若いんだからしっかりすっぺ!」

「危なかったら無理しなくていーからなあ」

膝がすっぽり浸かるほどの深さの川に流されることなく、網を手にずんずんと進んでいく漁師さん達に遅れを取る、筆者も含む若者3人。

その様子を笑って見ながら、優しく声をかけてくれる漁師さん達。

漁師さんというと、どうしてもちょっと荒っぽいと言ったようなイメージがありますが、全然そんなことはありません。

網にかかったサケを片手に取ると、物凄い力でビチビチと暴れては水しぶきが顔に飛び、手首ごともげそうになります。

「サケってこんな顔してるんだ…」と感動です。

聞き慣れない方言に少しだけ戸惑いながらも、とても温かく丁寧に教えて頂いて、貴重な体験となりました。

獲ったら終わり、じゃない

サケ漁を終えたら、今度は加工場へ。

なんと、孵化作業やイクラの加工過程も体験させて頂きました。

サケのお腹を裂くと、ファーッとこぼれ落ちてくる、綺麗なオレンジ色の球体の粒の数々に、学生たちから思わず歓声があがります。

体験に加えて、震災当時やこれからのの木戸川漁協についてのことから、サケの生態、ご自身の話まで、とってもわかりやすく、おだやかにお話をしてくださったのは、鈴木健太郎さん。

この方、鈴木健太郎さんについては、『サケが帰ってきた! 福島県木戸川漁協震災復興への道のり』というとってもステキな本があるので、是非こちらを読んでみてください。

https://www.shogakukan.co.jp/books/09227191

学生たちにしてくださるお話の口ぶりや、その作業の手付きからは、サケに対する愛情が、これでもかというほど伝わってきます。

激減してしまったサケの遡上数について、

「今出来ることをやっていくしかない。来年、再来年、3年後…とサケが少しずつ手もここに帰ってくるようにね。」

と、お話してくださった健太郎さんの穏やかな笑顔には、静かな力強さと熱さを感じさせられました。

帰りを待ち続ける

そして、あっという間だった木戸川漁協での3日間も終盤。

初めてづくしだったこの体験について、印象的だったことを学生達に聞いてみると、

「鮭にも、漁協の方々にも、その生命力に圧倒された。」

と、笑顔をこぼします。

“大丈夫だあ”と言いながら、今必要なことに真摯に向き合い続ける姿は、年齢なんか関係なく、「生きる力」に満ち溢れていると刺激を受けた若者3人。

サケが毎年木戸川に帰ってくるように、「この町に帰ってきたい」と思える町になるように、と取り組みを続けられる方々との出会いは、大変貴重な機会となりました。

「また、楢葉町に来たいと思う?」という質問には、

「え、そりゃまた来たいです!」との回答が。

彼らがまた帰ってくるように、次の秋にはサケがもっっと木戸川に帰ってきてくれることを願って、今回の紹介記事を終えたいと思います。

(*)新型コロナウイルスの対策を十分に行ったうえで、本プログラムは実施しています。

中窪千乃地元記者

投稿者プロフィール

早稲田大学を休学し、楢葉町の株式会社 結のはじまりのインターン生として新規事業の立ち上げに奮闘中です。
楢葉町にて小料理屋「結のはじまり」を営みながら、シェアハウスの運営、若手移住者のサポートを行っている、古谷かおりさんの元で働いています。 魚とサウナとフルーツサンドが好きです。

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