ゼロから再興を目指して。プレオープン中の「道の駅なみえ」へ

 

2011年に起きた東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により、21,000人以上の全町民が避難することとなった福島県双葉郡浪江町。福島第一原子力発電所から浪江町までの距離は、最も近い区域で約4kmです。

浪江町役場のホームページによると、山側の地域は未だ帰還困難区域なものの、それを除く地域は2017年3月31日に避難指示が解除され、2020 年10月末時点で町内には約1,500人が居住しています。

2018年には町立なみえ創成小学校・中学校が開校。今年(2020年)3月14日にはJR常磐線の富岡-浪江の運転が再開、4月8日に請戸漁港の市場再開と、町は少しずつ再興に向け動き出しています。

JR浪江駅前の景色。ポケットモンスターの生みの親の田尻智さんのお父さんが浪江町出身とのことで、駅にはキャラクターのミニフィギュアが展示されていたり、なみえ創成小学校・中学校の子どもたちの手紙が展示されていたりして、ちょっとほっこり。残念ながらJRさんから駅の写真の使用許可が下りず掲載できませんが、運転が再開した駅にもぜひ立ち寄ってみてください。

そんななか、“浪江町の復興のシンボル”として、8月1日にプレオープンしたのが「道の駅なみえ」です。来春(2021年)のグランドオープンを前に早くも賑わいをみせていると聞き、おじゃましてきました。

国道6号と国道114号が交差する知命寺交差点の角にできた道の駅なみえは、浪江町や周辺地域の情報発信室と、地元食材を中心にした飲食や物販を行う地域振興施設、町民同士の交流施設を備えた大型複合施設。

大型観光バスも停まれる駐車場は128台分ありますが、JR浪江駅からでも徒歩15分ほどなので、歩き慣れた方なら徒歩も苦ではない距離です。

取材したのは平日の午後で、浪江駅からの道は人気がほとんど見られなかったものの、住宅街を歩くと空き地の草を刈ったり、畑の手入れをしたりしている町の人の姿を見かけました。

大きな国道を越えて広い駐車場の先に見えてきたのは、福島県産の材木をふんだんに使った温もりを感じる外観。屋根にはソーラーパネルが設置されています。

道の駅なみえ・広報の山﨑篤只さんによると、同施設では太陽光発電、太陽光集熱器(太陽の光エネルギーを熱エネルギーに変えて水などの熱媒に伝える機器)、風力発電のほか、町内にある福島水素エネルギー研究フィールドで製造された水素も使っているそう。これは浪江町の掲げるゼロカーボンシティ(2050年に温室効果ガスの排出量又は二酸化炭素を実質ゼロにすることを目指す地方自治体)の方針に沿ったものとのこと。

正面入り口では、浪江町のゆるキャラ「うけどん」がお出迎え。
正面入り口を入ってすぐのところにある情報発信室では、道の駅なみえで作られている自然エネルギー・次世代エネルギー量の表示や、室内の放射線量の表示もありました。
建物裏手に設置された風力発電の風車。浪江町が所有する電気自動車(EV)も駐車していました。浪江町ではEVを活用することで、太陽光などの再生可能エネルギー電源で動かしたり、余った電気を蓄えたり、非常時の電源供給に使うことを見越しているそう。

続けて、地域振興施設のなかで現在オープンしているフードコートと物販エリアを案内してもらいました。

「焼き立てのパンが食べたい」といった町民の声から設えたという「まちのパン屋さん ほのか」は、毎日店内で焼いたパンを提供しています。一番人気は浪江町のソウルフード・なみえ焼そばを挟んだ「なみえ焼そばパン」(300円)。ほか、その場で好きな味のペーストを挟んでもらえるコッペパンも人気で、早い時間に売り切れてしまうことが多いそう。

取材日のペーストのフレーバーは14種類。
一番人気という「あんマーガリン」と新商品の「イチゴミルク」を購入(各129円)。
目の前でペーストしてくれるので楽しみも増します。

フードコートでは、請戸漁港で水揚げされた魚介を使った料理や「なみえ焼そば」などを提供する「フードテラスかなで」のほか、県内の老舗製麺所・本羽屋製粉所の麺を蕎麦、中華ソバ、うどんとして提供する「麺処ひろ田製粉所」、県内産旬のフルーツを使ったパフェやドリンク、パスタを提供する「福島フルーツラボ」があり、券売機で食券を購入したら好きな座席で自分の番号が呼ばれるのを待つスタイル。タッチパネル式の券売機は、現金、クレジットカード、交通系IC,電子決済も使え、領収書の発行もできて便利でした。

鮮度抜群の地魚を使ったフードテラスかなでの「豪華絢爛 海鮮チラシ」(1,500円)
浪江の澄み渡った空をイメージした、福島フルーツラボのパフェ「なみえの空」(750円)。食べられる菊、すとう農産のカレンジュラと、Berry’s Gardenのドライリンゴを使用。
麺処ひろ田製粉所では、Go Toトラベルの地域共通クーポンが使えるメニュー「特製盛り中華そば」(1,000円)を注文。具沢山で食べ応えがありました。

物販エリアは浪江産の野菜や米や花、海産物からお土産物、伝統工芸品の大堀相馬焼まで揃っていて、町の人も観光客も楽しめる品揃えでした。

直売所で販売している農産物はすべて、館内の放射能測定器で放射線量をチェックし、食の安全性を確認しているそうです。

地元農家さんたちの新鮮野菜や切り花も販売。
伝統工芸品の大堀相馬焼。浪江町大堀地区はまだ帰還困難区域のため、避難先で再開した窯元が作った商品を販売していました。浪江町の復興を応援するアイドルグループ・ももいろクローバーZ。地元で愛される鈴木酒造の日本酒・磐城寿などとのコラボ商品も。
浪江町の人たちからの要望を取り入れ、交流の場としても使える大会議室や郷土料理研修室もありました。コロナ禍で閉鎖中ですがキッズルームもあります。

取材した2020年11月時点は隣接する建物は建設中でしたが、来春のグランドオープン時には、ここが地場産品販売施設となり、浪江を代表する酒蔵「鈴木酒造店」ができると早くも話題になっています。ほか、大堀相馬焼の体験施設ができる予定です。

広報の山﨑篤只さん。出版社勤務の経験を生かし、道の駅なみえの広報資料なども作成しています。

案内してくださった広報の山﨑篤只さんは、福島市出身。福島県内の地域情報を紹介する出版社を辞め、道の駅なみえに転職したそう。

「浪江に来ることを躊躇している県外の方もいらっしゃるかもしれませんが、除染が終わり立ち入りができるようになったエリアでは、一歩一歩、復興に向けて動き出しています。道の駅なみえは、ドライブの合間に立ち寄る場所だけではなく、町の復興にあたって人と人とのつながりを感じられる場所です。例えば、販売する野菜を通して、来てくれた人が浪江で安全な野菜が作られていることを知り、その野菜を作った農家さんの存在を知る。そうした機会を作れる場所でありたいと思っています。毎月第3土曜日と日曜日は、「なみ笑げんきフェア」と銘打ち、浪江町の方はもちろん観光客の方にも向けた楽しいイベントを企画中です。ぜひお越しください」。

なみえ創成小学校・中学校の子どもたちの作品や、写真コンテストの展示も。微笑みながら眺める人たちの姿もあり、波江町の人たちの集いの場所といった印象も受けました。

<<訪れた場所・お店>>

道の駅なみえ
住所:
福島県双葉郡浪江町大字幾世橋字知命寺60
電話番号:
0240-23-7121
営業時間:
産地直売所 10:00〜19:00
フードコート 10:00〜18:30(L.O. 18:00)
※店舗により開店・閉店時間は異なります
まちのパン屋さん ほのか 10:00〜16:00
郷土料理研究室・大会議室 10:00〜18:00
定休日: 
毎週水曜日
※営業時間や定休日は今後変更になる可能性があります。公式ホームページで確認してください。

ホシカワミナコフリーランスの編集者・ライター

投稿者プロフィール

干川美奈子/フリーランスの編集者・ライター。長野日報東京支社広告営業、大村書店書店営業を経験後、女性向け情報紙「東京パノラマ」、TVスポーツTV誌「TV sports 12」、育児・教育誌「プレジデントFamily」、ビジネス誌「プレジデント」の編集部に在籍。「こだわって、楽しく」をモットーに、雑誌・書籍・紙媒体・WEBなど、さまざまなメディアで活動中。
この仕事の醍醐味は人との出会い。今回の浜通り取材は、バスや電車を乗り継ぎ、歩き回って浜通りの各自治体を体感してきました。ご協力いただいたみなさま、お力添えくださったみなさまにお礼申し上げます。

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