未来はここから始まる双葉町のアートプロジェクト【FUTABA Art District】
2011年3月の東京電力福島第1原発事故で全町民が避難を続けている福島県双葉町。
かつてにぎわいがあった双葉駅前にウォールアートが誕生した。
巨大な人さし指が更地の一点を突き刺すように指し示し、描かれた力強い文字は「HERE WE GO !!!」。
ここに存在した。今も存在している。そして、私たちの未来はここから始まる。
「アートの力でネガティブな町のイメージ」を変える。
かつて鉄鋼の街として繁栄し、20世紀初頭にはスペイン一裕福な都市となったスペインのビルバオ。
その後、重工業の衰退とともに街全体も衰え、未来に残る産業もなく、スペイン観光の目的でもある気候にも恵まれない、絶望的な状況で再生計画の要となったのが現代アートの「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」の設立。そして、一度きりの来訪ではなく、街をリピートして訪れたくなる巧みな仕組みも相まり、今や世界中から観光客が訪れる観光都市に昇華した。
日本でアートの地として多くの方が思い浮かぶのは、直島が筆頭の瀬戸内海の島々でしょう。
3年に1度開催される「瀬戸内国際芸術祭」では香川県高松市からのフェリーの運行をどれだけ増やしても足りないほど、国内外からの多くのアート好き観光客が訪れ、アジアやヨーロッパからの日本旅行者でも東京や京都ではなく、瀬戸内に行くのがクールな日本旅行という価値観まで作り上げている。
今や現代アートで盛り上がる明るい島のイメージがすっかり定着した直島・豊島・犬島ですが、大正時代には銅精錬事業で栄華を極めたものの第一次世界大戦終息の頃には銅価格が暴落し、たった数年で廃業に追われ、公害により島はボロボロになった。
さらには昭和後期の高度経済成長による都市部への集中の被害となる、50万トンにもおよぶ産業廃棄物が不法投棄され、鉛などの有害廃棄物も基準を超え、ダイオキシンも高濃度に含まれていることが大きな社会問題になった。
このダメージを負った島々は2001年にベネッセコーポレーションに買収され、直島福武美術館財団の力も加わり、アートで建て直され、活性化された。
アートは耽美的なインテリア要素の飾る美しいもの、単に実用的なものだけではありません。
分断や非寛容が進みあらゆるボーダーが広がっていく中で、ルール作りの政治や数字と拝金のビジネスが不得手な、新しい未来、新しいコラボレーションを生み出すことができるのがアートの力です。
アートの役割は変化していく世の中で、世界に議論を生んだり、外の世界や分断されたものの間でコラボレーションを生み、そのメッセージと効果を人々に最も効果的に伝え、考えるきっかけになることです。
「HERE WE GO !!!」
町をアートで再生しようというプロジェクト「FUTABA Art District(フタバアートディストリクト)」がスタートした。
2020年に第一弾として制作されたのがこの「HERE WE GO !!!」。
情熱大陸にも出演したアートユニットOVER ALLs(オーバーオールズ)の代表・赤澤岳人氏と震災前に双葉駅前で飲食店「JOE’SMAN」を経営していた髙崎丈氏(双葉町出身、現在東京都世田谷区三軒茶屋にて飲食店経営)との出会いから始まったのが「FUTABA Art District」です。
OVER ALLsの赤澤氏の「日本でも、“ART DISTRICT”を実現させたい!」という想い。
オランダでアートで再生した造船場を目にしてから「双葉町も、アートで再生させたい!」と考えた髙崎氏との偶然の出会いから【FUTABA Art District】プロジェクトが立ち上がり、地元の方を巻き込みながら、双葉町をアートだらけにする取り組みが始まりました。
参照:OVER ALLs 公式ウェブサイト
福島県 双葉町のアートプロジェクト【FUTABA Art District】がスタート。
http://www.overalls.jp/cn1/futaba-top.html
ロミオとジュリエットをモチーフに描いた作品『Graph Balcony(グラフバルコニー)』
バルコニーから手を伸ばすジュリエット。
ジュリエットの手摺りは、放射線量のグラフ。
数値があともう少し下がれば、ロミオと手を繋ぐことができる。
除染作業の防護服を着たロミオ。
マスクを外しジュリエットに向けて手を伸ばす。
もう少しで、きっと、彼女と手を繋ぐことができる。
参照:OVER ALLs 公式ウェブサイト
【FUTABA Art District】Vol.0『狼煙・Glaph Balcony』
http://www.overalls.jp/cn1/futaba-01.html
双葉で育った人なら全員が知っている。ファーストフードのお店「ペンギン」。
お店の名物ママ、真っ赤なヘアの吉田岑子さんが描かれた【FUTABA Art District】第二弾のウォールアート。2020年10月完成。
名物メニューだったドーナツの穴から町を見渡す吉田さんの笑顔は、今は別の地で暮らす人々をいつでもこの双葉から見つめ、そして双葉に帰ってきたら駅を出て真っ先に温かく迎えてくれるでしょう。
2020年10月1日に産業交流センター内に「ペンギン」が復活。これは帰還困難区域に指定されてから、双葉町に帰ってきた店舗として初とのこと。
参照:OVER ALLs 公式ウェブサイト
【FUTABA Art District】Vol.2『ファーストペンギン』
http://www.overalls.jp/cn1/futaba-03.html
そして、こちらが2020年12月に開催された第三弾のウォールアート。
震災当時小さかった子どもが今ここまで成長したという流れを描き、「未来と成長」の意味が込められています。
アートが増え続けている町、双葉町。
負の遺産から目をそらすのではなく、歴史の変遷をアーカイブし新たな未来を育む再生の物語が、今、ここで紡がれている。