いわき市で再開 大堀相馬焼窯元 陶吉郎窯を訪ねて

「大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)」は、福島県双葉郡浪江町の大堀地区(旧大堀村)で作られてきた300年以上の歴史がある焼き物です。徳川家光が参勤交代時に各藩から贈られる品のなかで「最も価値のあるもの」としたと文献にあり、1978年(昭和53年)には国の伝統的工芸品指定を受けています。

主製品の特徴は3つあり、一つは青磁釉(せいじゆう)による青ひびといわれる貫入(かんにゅう)が器全体に広がった地模様となっていること。もう一つは『走り駒』の絵が描かれていること。そして器の構造が「二重焼」になっていることです。

陶吉郎窯の大堀相馬焼

そんな大堀相馬焼の故郷、浪江町は、東日本大震災による原発事故で全域が避難指示対象になりました。2017年3月末に町内の一部地域は避難指示が解除されたものの、大堀地区は9年が過ぎた2020年11月現在も帰還困難区域のまま立ち入ることができず、窯元や職人たちは避難先で暮らしています。

大堀相馬焼の窯元の一つ「陶吉郎窯(とうきちろうがま)」の近藤学(まなぶ)さん(トップ写真右)と息子の賢(たかし)さん(トップ写真左)は、2011年の6月にいち早く避難先のいわき市で制作を再開し、2018年には新しい工房をオープンしました。

さらに2020年の日展(改組新第7回日本美術展覧会)の工芸美術では、学さんが初の特選を受賞し、賢さんも入選と、新天地で明るい話題に沸く陶吉郎窯で、窯主の学さんにお話を伺いました。

東京で行われた第7回日展(国立新美術館 2020年10月30日〜11月22日)で、近藤学さんと特選を受賞された作品「象嵌彩 暁の景」。下は賢さんの作品「innocent blue」。

JR常磐線草野駅からタクシーで海のほうへ向かって10分ほど。木々に囲まれた洋館に現在の陶吉郎窯はありました。入るとすぐに広い駐車場があり、正面がギャラリーとお住まいのある洋館、右側に工房と登り窯があります。もともとは東京の実業家の別荘で、その後、私立いわき近代美術館として使われた建物だそうです。

いわき市の陶吉郎窯
ギャラリーでは、陶吉郎窯の大堀相馬焼のほか、学さんと賢さんそれぞれの作品を展示販売。

陶吉郎窯では、伝統的な大堀相馬焼と、学さんと賢さんそれぞれのオリジナルの作品を制作しています。

上で紹介した今年の日展の作品写真のように、2006年頃から、学さんの作品は象嵌(ぞうがん)が中心。象嵌は、土台となる陶器が生乾きのうちに模様を掘り、その溝に素地色と違う色の色土を埋めていく装飾技法。使う色土の数が増えるほど溝を掘って埋める回数が増えるうえ、陶器は焼くと縮小するため、難易度が上がるそうです。

一方、賢さんの作品は、水や大気の流れを表現した流線形を特徴としています。一旦ろくろで成形した後、あえて手で流線形を作っていくそうですが、曲線がきれいで手で作っていると思えないほどです。

賢さんは「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017」匠に選出されています。写真は酒器シリーズの「innocent blue」。

学さんに、大堀相馬焼の作品とは別にそれぞれの作品創りを行う理由をうかがうと、大堀相馬焼を想う、意外な答えが返ってきました。

「私が子どもの頃まで、大堀相馬焼の窯元は問屋から注文をもらい、職人が作ったものを窯元が焼成(窯に入れて焼くこと)して仕上げ、問屋が売るという受注生産で成り立っていました。それが1970年代に問屋制が崩れてからは、窯元がそれぞれ販売も行わなければならなくなりました。地場産業としてどの窯元も同じような商品を作っていたのが、窯元ごとの特色が必要になったわけです。大学卒業後に家業を継ぐことを決意した私は、まず販売経路を探しました。そのとき、ある東京の百貨店で『大堀相馬焼は土産物屋に置かれる焼き物』と言われ、衝撃を受けました。それはつまり、百貨店で常時扱う焼き物ではない、と言われたようなもの。ほかの生産地の焼き物と格の違いを突きつけられたんです。このままでは大堀相馬焼の未来はないと感じました」。

精密さに描いているのではと見まがうほどの、学さんの象嵌作品「静寂の神秘」と「彩の舞」。特に展覧会に出展している作品はサイズが大きいので、表面が乾かないように加湿器をフル稼働させ、高湿度のなかで作り続けるそう。

以降、学さんは、世の中にある陶芸の技法は全て身につけようと、全国を巡ってさまざまな焼き物を見て視野を広げていったそうです。

「これはと思うものに出会ったら、作者に話を聞いたり自分で専門書を読み漁って技法を調べたり。挑戦と失敗の繰り返しでした」。

同時に大堀相馬焼の格をあげて業界に新風を巻き起こしたいと、20代半ばから展覧会への出展も始めます。28歳から日本最大規模の美術展「日展」への出展も始め33歳のときに初入選すると、大堀相馬焼の歴史上初の快挙とあって、その後、展覧会に出展する同年代の窯元も増えたそうです。「私自身もさらに高みを目指し、日展の特選受賞を目標に、毎年欠かすことなく出展を続けてきました」。

学さんが大堀相馬焼の制作に加え、独自性のある作品創りにこだわるのは、大堀相馬焼全体の技術の底上げと知名度の向上、そして窯元として生き残っていくために「近藤学といえばこの作風」といった技法を世間に認知してもらう目的がありました。

春に焼成を行う登り窯。
昭和40年以降一般的になったガス窯で焼成した作品のほか、復元した登り窯で焼成した作品も。ガス窯の場合は一昼夜かけて焼成し陶磁器に均一に火が回るため、釉薬も均一。一方、焼成に1週間を要する登り窯の場合は、燃料の赤松の灰が陶器の一部分に焼き付くなど、味わいのある仕上がりになるそう。

現在の工房は制作に専念できる十分な設備を整えられたものの、「大堀相馬焼の今後については常に葛藤がある」と学さん。

「産地で窯元の長男として生まれ、親も祖父も曽祖父もこの仕事を続けていて、周囲の同年代の人たちも家を継いでいるといった環境で育てば、別段意識しなくともその精神を受け継いでいくものです。一方、窯元がそれぞれの避難先で制作を再開している今、我々の子どもや孫たちが伝統産業を繋いでいこうと感じるでしょうか」。

いわき市の工房の登り窯の前で、九代目窯主の近藤学さん(右)と息子の賢さん。大学卒業までは野球選手を目指して家業を継ぐ気はなかったという学さんに対し、賢さんは子どもの頃からこの仕事に就きたいと感じていたそう。

大堀相馬焼の未来を見据え、具体的な構想もお話くださいました。

「昔の大堀相馬焼を現代に合う形にアレンジして蘇らせ『令和の大堀相馬焼』を作りたいんです。大堀相馬焼は『馬の絵(走り駒)』『地模様の青ひび』『二重焼』が特徴とされていますが、これは『昭和の大堀相馬焼』の特徴です。もちろん馬は昔からモチーフとして多く描かれてきましたが、昭和以前の大堀相馬焼の作品を調べると、風景や花や鳥といった絵柄もあります。青ひびは昭和に入ってからの特徴です。熱いものを入れても持ちやすく、入れたものの温度が変わりにくいといった利点のある二重構造は明治後期の草案とされていますが、全窯元が作り始めたのは昭和になってから。つまり、大堀相馬焼は時代に合わせて特徴を変えてきたのです」。

奥にある白と黒の皿が「水切り皿」。水気を切るだけでなく、油切りや蒸し料理にも使える。

陶吉郎窯では、二重焼の構造を現代の生活に合うようにアレンジした「水切り皿」を考案し、特許も取得していますが、「令和の大堀相馬焼には、よりストーリー性を持たせたいんです。過去の大堀相馬焼の歴史のなかで最も難しいと言われている、筒描(つつがき)の技法を復活させてはどうかと考えています。細いスポイトに土泥や釉薬を入れて、フリーハンドで絞りながら絵柄を描いていく技法で、焼成後に描いた線が浮き出てくるのが特徴です」。

筒描の技法は、幕末から明治にかけて作られた大堀相馬焼に見られるそう。「細い線で繊細な絵柄を描いていくのは非常に難易度が高く、大堀相馬焼では引き継がれていません。これを若い職人たちに習得してもらい、令和の大堀相馬焼の核に出来ないかと考えています」。
梅の木が描かれた明治時代の大堀相馬焼の壺。

この実現のため、将来的には学さんが単身で浪江町に戻り、産地形成できる可能性を探ることも視野に入れているそうです。

「美大で焼き物を専攻している学生で、その後焼き物を生業にできている学生はほとんどいません。でもやりたい若者がいるなら、例えば地域おこし協力隊として募集して、3年間の修行後にそのまま浪江町で窯元になってもらえる仕組みを作ってはどうか。その人たちが所帯を持てば、子どもや孫が受け継いでと、産地形成の可能性も見えてくるのではないか、と。とはいえ、現状、私1人では資金不足。だから今のところ構想だけ。たくさんの人にこの構想を話すことによって目標達成できるよう、自分をがんじがらめにしているところです」。

そう熱い想いを語ってくださいました。「先祖代々繋いできて、一時代を自分が任せられているのと同じ。いい形で息子に渡せられれば、息子も孫にと渡していける。今置かれている状況のなかで、精一杯やるしかない」という言葉からは特に、力強く生きる姿勢が伝わってきました。

日用使いできる象嵌の作品も

陶吉郎窯の一部商品はオンラインショップで販売していますが、一つ一つ手作りされる焼き物は、実際に見て、触って、説明を聞きながら選びたいもの。ぜひ工房に足を伸ばしてみてください。

<<訪れた場所・お店>>

大堀相馬焼陶吉郎窯 | 近藤学 近藤賢
住所:
福島県いわき市四倉町細谷字水俣75-17
電話番号:
0246-38-7855
営業時間:
10:00〜18:00
定休日: 
毎週火曜日
※年末年始はお休み
※ ゴールデンウィークは休まず営業
WEBサイト
公式サイト
オンラインショップ

ホシカワミナコフリーランスの編集者・ライター

投稿者プロフィール

干川美奈子/フリーランスの編集者・ライター。長野日報東京支社広告営業、大村書店書店営業を経験後、女性向け情報紙「東京パノラマ」、TVスポーツTV誌「TV sports 12」、育児・教育誌「プレジデントFamily」、ビジネス誌「プレジデント」の編集部に在籍。「こだわって、楽しく」をモットーに、雑誌・書籍・紙媒体・WEBなど、さまざまなメディアで活動中。
この仕事の醍醐味は人との出会い。今回の浜通り取材は、バスや電車を乗り継ぎ、歩き回って浜通りの各自治体を体感してきました。ご協力いただいたみなさま、お力添えくださったみなさまにお礼申し上げます。

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