ゼロからはじめる、開拓者達の集まる場所「小高パイオニアヴィレッジ」

 

小高パイオニアヴィレッジ

南相馬市に、移住者、Uターン者など、開拓者達が集まる場所がある。

それが「小高パイオニアヴィレッジ」だ。

私が訪れたタイミングは、ちょうど「給食会」という名のランチイベントが行われていた。参加費は1人 500円。月に1度程度、当施設利用者や地域の方が集まる時間だとか。私が訪れた日は、20人超の人がサンマ、肉じゃが、味噌汁を囲みながら、それぞれが楽しそうに会話を繰り広げて、温かい雰囲気が流れていた。日本の各地に、コワーキングスペースができており、幾つか足を運んだ事はあるが、これだけ多くの若者が集まっている場所は、珍しいのではないだろうか。

小高パイオニアヴィレッジができたのは、2019年3月。2011年の東日本大震災の後、一時的に居住が制限され住民がゼロになったエリアでもある。2016年7月12日に居住制限は解除され、今はおよそ約3,700人あまりがこの町で暮らしている。震災前は 1万人弱が住んでいた町。

 このエリアを舞台に事業を通じて地域課題の解決を、と考え、関係人口の創出を意図してつくられたのが、「小高パイオニアヴィレッジ」だ。ゼロベースから社会を創造する開拓者=パイオニア達が集まる村だから、この名前がついている。

 開業当初は、小高駅前のお茶屋さんに一角を間借りし、コワーキングスペースを運営していたが、2019年3月に現在の施設へ移転したのだそうだ。Next Commons Lab南相馬のプロジェクトに関わるメンバーや起業家を中心として、移住時の拠点ともなっており、このエリアで活動する人達が集まっている。

宿泊できて仕事もできるオシャレな空間

 施設の特徴を一言で言えば「宿泊できるコワーキングスペース」衣食住の境界がない空間となっており、建物の施設内には “ 行き止まりがない “。宿泊スペースとコワーキングスペースは扉1つで繋がった「境界のあいまいな建築」となっており、ガラスアクセサリー工房も併設されている。機能を固定化せず、移り変わる課題や地域の可能性の伸びしろに合わせてハードもソフトも柔軟に機能できるように設計されており、変化に柔軟に対応できるようにつくられた施設。余白をもたせた空間は、2019年グッドデザイン賞を受賞している。

コワーキングスペースエリアは、大きく2フロアに分かれているが、その途中のひな壇で作業をすることもできる。集中して仕事をしたい人は、テーブル席を利用して、集中して仕事をすることもできるし、打ち合わせスペースもある。リラックスして仕事したい人は、座布団に座りながら作業をすることもできる。仕事するでもなく、横になっている人もいて、まるで家のような雰囲気で過ごしている人もいたのが印象的だった。

 コワーキングスペースだけあって通信速度は速く、ダウンロード 200Mbps、アップロード 200Mps と爆速だった。

 また施設内のひな壇を利用したイベントも開催されており、地域の人と繋がる機会もある。この施設に宿泊した翌日の午後から偶然イベントがあったので参加させていただいた。

小高でゼロから酒蔵をつくる haccoba のイベント

 地域の発展に欠かせないとされる、よそもの、わかものが集まった場所だが、ただ特定の人達が群れているだけでない。地域と繋がる機会があることに面白さがある。偶然にもそんな機会に立ち会うことができ、これこそが小高パイオニアヴィレッジっぽい活動なのでは?と感じたので紹介したい。

 この日、開催されていたのは、小高地区で、ゼロからの酒蔵づくりにチャレンジする「haccoba」の代表者によるトークイベント。普段の施設利用者だけでなく、隣町から車でやってきた方や近所で暮らす主婦の方々など、30名以上が土曜日の昼間、この場所に集っていた。

詳細は、プロジェクト立ち上げ時のクラウドファンディングサイト(https://www.makuake.com/project/haccoba/)に譲りたいと思うが、トークイベントの内容から、興味深かった点を抜粋して紹介させていただきたい。

小高を酒造りの場所に選んだ理由

創業者の2人が語った言葉を幾つか残しておきたい。ここからは本人たちのトークセッション中の言葉を借りてお伝えする。

 このプロジェクトを立ち上げた2人は、小高出身ではない。しかし、この場所を酒蔵開業の地に選んだ。酒造りをしたい、酒蔵をつくろう、と考えていたものの場所は決まらないままだった。場所選びにおいては「場所が持つ意味」を大事にしたい、と考え続けていた。

 酒蔵は10年、20年、100年と続いていき、その町に根付く。そんな酒蔵には新しい可能性があるのではないか?と考えるようになっていた。

 酒蔵があれば、地域の方にも喜んでもらえ、観光で訪れる方がやってくる可能性もある。

そんな事を考えはじめた時に出会ったのが、南相馬の町で活動するNextCommonsLab南相馬の和田さん。和田さんが取り組んでいるまちづくりに共感した。

 一度は人口がゼロになった小高区。かつては、小高の町にも酒蔵があり、浜通りにも幾つか酒蔵があったが、ここ数年で数も減り、このエリアに酒蔵がないのはもったいない、あったら楽しいに違いない、とも感じた。そうした、さまざまなご縁が重なり、小高の地で酒蔵を開くことを決めたのだ。

 東京で暮らしていると、原発の事も、この土地の事も、忘れてしまいそうになる。記憶を風化させないためにも、まずは小高の地でめちゃくちゃうまいお酒をつくり、お酒を楽しんでもらう。この小高でつくられたお酒を通して、地域を知ってもらい、過去の記憶を思い出しもらうきっかけにもしたい。お酒をつくる過程では、地域の人やお客様にも関わってもらおう、と考えている。その一歩が本日のイベントだった。

お店のイメージは、酒蔵に加えて人が集まれる場所として、つくったものをその場で飲めるバーを併設する予定。元々民家だった場所をリノベーションし、縁側とテラスを設置し、肝心の酒蔵はガラス張り。そこには造り手と飲み手の垣根をなくしたい、との想いが込められている。民家のリノベーションで酒蔵をつくる、ガラス張りの酒蔵、いずれもおそらく前例のないチャレンジだ。

何の気なしに地域の人が、ただただ酒が飲みたい時に集まれる場。地元の人もそうでない人も、年齢も性別もバラバラで、色んな人が気軽に集える場をつくろうと取り組んでいる。

 オープンは、2021年春頃を予定しているが、最新情報はTwitter(https://twitter.com/haccoba)等でご確認ください。

 人口がゼロになったまち小高に、みんなが育てる酒蔵がうまれようとしている。小高パイオニアヴィレッジは、このような様々な取り組みのハブ機能を担っている、そんな風に感じた。時代の変化に応じて、柔軟に変化していく当施設を次に訪れた時には、どう変わっているかも楽しみだ。

 宿泊できるコワーキングスペース、ぜひ宿泊して、小高に住む人々と交流をしてみてほしい。

住所:〒979-2124 福島県南相馬市小高区本町1-87

電話:0244-26-4665

HP:https://village.pionism.or.jp/

桂川融己トラベルライター

投稿者プロフィール

得意分野は、好奇心の高さとフットワークの軽さを活かした繋ぎ役「コネクター」。 ミャンマーでインタビュアー兼ライター兼編集やら、マーケティング支援など。 日本生命で8年弱働き、現地採用でミャンマー・ヤンゴンへ。 日系企業向け人材紹介会社業で2年間働き、その後フリーに

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